03_岬峠と岬村

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 思い返せば家族で旅行に出かけた試しがほとんどない。  家族仲は他所と比べても良好だったと思う。よく笑いよく話す。どこにでもある幸せな家庭の1つだったはずだ。  血が繋がってない特殊性に負い目を感じたこともない。普通を渇望した俺が唯一望まなかったのが普通の家族だ。  それに宿り身の仕事をこなし東西南北どこへでも行った。世界の国々に足を踏み入れ、この星における絶景も幾度となく目にした。  その経験を正しく旅行と呼称するのはおそらく難しい。  だから普通の旅行を友達や家族と行くのは今回が初めてだった。  そんなわけですこぶる早く目が覚めた。  集合時間は朝6時。メンバー全員の自宅から均等な距離になる駅に集まる運びになっていた。  現在時刻は3時30分。  二度寝をするにも寝過ごすのが怖いし、かと言って今から駅に向かうのも早すぎる。  考えに考え、トレーニングをして時間を潰すことにした。結局のところ最後に選ばれるのはこれだ。  過去に兄さんに暇さえあれば鍛えておきなよと言われたのが今では習慣になっている。五十鈴にトレーニング馬鹿と冷たく蔑まれたがつい昨日のようだ。  ダンベルと自重トレーニングを適度にこなし、さっとシャワー浴びる。  白黒チェック柄のボストンバックに1泊2日用の必需品が入っているのを確認し、いつもの白のワイシャツと太めの黒のスラックスに着替えた。  「おっと、これを忘れるところだった」  暇つぶしにと思って買っておいたトランプをバックに放り投げる。これで準備は整った。  戸締まり確認。さらば我が家。明日には帰ってくるよ。
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