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「帰ったら晩酌ね。帰りにコンビニ寄ろっと」
1日を締める至福の計画を練り、手早く帰り支度を済ませる中、
「げっ」
スマホが鳴った。
ポケットから取り出すなり、恨めしげに画面を見る。
電話相手は非通知で掛けている。しかし、彼女が気を損ねたのは匿名性ではなかった。
「よりにもよってこっちかぁ」
宿り身が関わる事件の窓口となる緊急連絡用のスマホ。
一筋縄ではいかず、かなり面倒な案件でなければこちらに電話が掛かってくることはない。
「もしもし」
不機嫌さを隠そうともせずに電話に出る。
『夏目さんかな』
男の声、なのだろう。断定が出来ないのは変声機を通した機械的な声だったからだ。
「そうだけど、何かご用でも?」
眉をひそめるも、夏目の対応は手慣れていた。このスマホに掛かってくる電話の主がまともだった例はほとんどなかった。
質問をしておきながら、答えを待たずに夏目は自嘲し、
「ってこの番号に掛けておいて用も何もなかったわね。質問を変えるわ。誰からの紹介?」
緊急用の番号を知るものはごく少数に限られる。面識のない者から掛かって来るならば、十中八九彼女を頼るよう吹き込まれたのだろう。
『柳沼氏、と言えば伝わるね?』
電話の男が述べた名前を聞いて夏目は口元を歪めた。
「……また大きい名前を出したわね」
それと同時にその当該人物から直接仕事が下りていたのを思い出す。
自分の手を借りたいと申し出があったから代わりに対応してくれと。つまりこの電話を指すのだろう。
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