02_この学校ではよくある話

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 などと解説を入れてみたけど、要するに部室までが遠い。  部室棟の昇降口まで歩いて今日も懲りずに同じ感想を持った。  古びれた下駄箱に俺が所属しているSF研究会用の文字があり、俺専用となっている黒の外履きサンダルを手に取る。  「あ、矢浪さん。こんちわっす」    後ろから気さくに声が掛けられた。  浅く日に焼けた肌に整髪剤で立たせた銀の短髪。見るからにヤンキーチックではあるが、猫のような切長の目にやんちゃで女子受け良さそうな顔立ち。  学校指定の学ランの中に白のパーカーを着込み、お手本のような一礼したのは折坂草介だった。  気付かぬ内にうんざりした目で俺は折坂にいつもの言葉を吐く。  「折坂、頭まで下げなくていいって言ってるだろ?」  折坂は1つ年下。一応先輩の俺に対しては間違った行為ではないけれど、そこまでするなと繰り返し言い聞かせているのにこれだ。  「何言ってんすか。部活の先輩なんだからこれが普通です。運動部なら適当な挨拶してたらぶん殴られますよ?」  「まじかよ。やばいな運動部の縦社会」  部活動経験の無い俺からすれば未知の世界。大袈裟だとは思いつつ、身を置いた経験がないので断定は出来ない。  そもそもSF研究会は文化系の部活なんだけどな……。  「そうそう。だからこのままで良いんすよ」  上機嫌に下駄箱からサンダルを抜き取る。何だか上手く丸め込まれた気分だ。  折坂は良くも悪くもとにかく目立つ。波風立たせず平穏な学校生活を望む俺としては過剰な挨拶は控えて欲しいのが本音だ。  しかし、この折坂という男は本気で俺を慕ってくれているらしい。無下に扱うにはどうにも(はばか)れるから困ったものだ。
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