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「にしても、部室まで遠いっすよね」
サンダルに履き替え折坂は愚痴を溢す。
「まぁ、教室からだと結構距離あるよな」
「たしか部室棟は空いてるんすよね?」
折坂の疑問に俺は部室棟を仰ぎ見る。
「昔は満室だったけど今は空いてるらしい。でもプレハブは先生と水原のお気に入りだから、そう簡単に手放さないだろうな」
私物をガンガン持ち込んだ彼女らの理想空間が現部室。
部活消滅危機の際には夜に押し掛ける禁じ手を使い俺を勧誘したくらいだ。撤去命令が出ても簡単には従わないだろう。
「へぇー、そんな裏事情が。まぁ、遠いのを除けば秘密基地っぽくて俺も好きなんすけどね」
「あー、何か分かる。騒がしくないのがいいよな」
「いいっすね。都会の喧騒を忘れられます」
ノスタルジックな価値観はすぐに共感された。和やかな気持ちで男2人が童心に帰る。絵面的にどうなんだこれは。
上履きを手に持ち、いざ部室へ。
さっきまでの考え事が話題に上がったついでにもう1つ訊いてみる。
「そういえば折坂はどうしてこの高校を選んだんだ?」
「え?学ランだからっすけど」
即答された。しかも少数派だと決め込んでいた派閥をさも当然のように。
「他に決め手とか無かったの?」
折坂は首を捻り、
「他には……特に無いかなぁ。家からそこそこ近くて俺の頭でも頑張れば入れて、学ラン着れて、ってなったら必然的にここでしたね。それに進路の幅も広いんで」
見事なまでに条件と一致していた。それと卒業後のこともちゃんと考えているのがちょっと意外。
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