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じゅりあは朝風の冷たい呼吸を感じて目を覚ました。
長い胸苦しい夢を見ていた気がするが、何も思い出せない。
寝ぼけまなこで起き上がり、枕元の携帯端末を手探りした。目をこすりながらそちらを見る。ない。床に落ちたと思ったが、のぞきこんでみても何もない 。床を掃くように視線を窓のほうに動かしていく。
じゅりあは凍り付いた。
ベッドのヘッドボードの背後に見たこともない女がいるのだ。
肩幅のぶんだけ開いた窓に腰掛けて、右手にじゅりあの携帯端末を持ち、こちらに顔を向けて、左手の人差し指を伸ばして、静かに、と言うように口元にあてていた。
驚きのあまり声が出なかった。
「あなたに何かするつもりはないの。逆に、私はあなたを助けられるかもしれない。信じなくてもいい。ただ、ほんとうに手荒なことはしたくないの。だから、叫んだり逃げだしたりしないで」
女は静かな、疲れ切ったような声でそう言った。
じゅりあはただ黙って頷いた。
女の足が視界に入った。はだしだった。女の足は汚れていて、ところどころ傷ついて血を流していた。
——どうしたの、これ……
そう尋ねようとして、顔を上げて、息が止まった。
女の目がまるで映画の特殊効果のように、淡い紫色の光を放っていたからだ。女の視線は、じゅりあの携帯端末に向けられていた。
端末もまた、紫色の光に包まれていた……
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