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気がつくと病院のベッドの上だった。
二週間の療養のあと、蘇芳は形式的な取り調べを受けた。
霊科研のエージェントであるとは、もちろん名乗らない。表向きの職業と身分証明書を持っており、それは贋物ではないから当然通用する。
前夜に起きた民家の全焼と関連付けることを、警察はしなかった。
住居不法侵入罪その他が適用され、罰金十万円を支払って蘇芳は釈放された。
いつの間にか、外の世界は夏になっていた。
蘇芳は空を見上げ、強すぎる陽射しに目を細めた。
アクティブソナーのように、霊波を周囲に放つ。
小学校のある方角から、異常な強さの波動が跳ね返ってくる。
誰にも気づかれないままに、どれだけの子どもたちが天使に置き換わっているのだろう。
蘇芳は、暗澹たる思いに包まれながら、明るい喧騒に包まれた市街地を歩いた。
今このときも、天使たちの侵略は続いている。
あの子どもたちが大人になったとき、人間は滅びるのかもしれない。
蘇芳は立ち止まり、再び空を見上げた。
人間の運命などなんの関わりもないというように、夏の太陽が燦々と輝いていた。
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