11人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
帰りの会の直前、三上陸くんがじゅりあを振り返ってにこりと笑った。視線があうと、手の中のスマホを指先でつんつんとやった。
何か送ったから確認してね、ということなのだろうけれど、じゅりあは陸くんの笑顔だけで胸がいっぱいになってしまって、顔が赤くなってしまう自分が恥ずかしくて、何のリアクションも返せないままうつむいてしまった。頑張って顔を上げたときにはもう帰りの会がはじまっていたし、そのあと陸くんは男の子の友達と一緒に帰ってしまった。
陸くんと直接話したことはない。クラスのグループチャットの中でお互いの発言を拾うことは何度かあったけれど、一対一のからみは一度もない。だからじゅりあは嬉しかった。きっと天使のことなんだろうけれど、話の内容がどうでもいいくらい、じゅりあは陸くんの笑顔で舞い上がってしまっていた。
かなでやえりか、いつものグループで下校。皆は何も気づいていなかったようだから、じゅりあも何も言わなかった。皆と別れて、初めてかばんからスマホを出した。
エンジェルインストールのアイコンをタップした瞬間、画面が明るく光る。SSレアの権天使ガデルエルが、派手なアニメーションで登場して、笑顔でこちらに手を振る。光に溶けるようにその顔が消えて、テキストメッセージが浮かび上がった。
『 今夜11時00分に 、RIKUさんのとくべつな天使があなたに会いに来ます。あなたもとくべつな天使でお出迎えすると、素敵なことが起こりますよ』
なんてことのない定型文だが、じゅりあの胸は高鳴った。じゅりあも、とくべつな天使は持っている。
ガチャでは絶対に出ることのない、だからレア度の表示もない、座天使サブリエル。一度召喚してしまうと24時間でいなくなってしまうから、今まで立ち絵やプロフィールを眺めるだけで満足していた。
素敵なことって、何が起こるんだろう。
ぜんぜんわからなかったけれど、使うなら今しかないと思った。
『サブリエルを召喚し、RIKUさんの天使をお出迎えする』
ためらわずにそのアイコンをタップした。
直後、スマホがぶるぶるっと震え、画面が真っ暗になった。じゅりあ自身の視界も暗くなる。赤い光が視野の周縁で明滅する。一瞬、気が遠くなった。手から抜け落ちたスマホが、地面に落ちてカタリと鳴った。
はっ、と我に返る。
地面に膝をついてスマホを拾い上げた。裏にも液晶にも傷はない。画面は暗いままだったが、再起動をかけると元に戻った。
エンジェルインストールが立ち上がる。
『あなただけのとくべつな天使を召喚中』
一面真っ青な画面に、白いその文だけが浮かんでいた。
他には何のアイコンもない。
タスクキルも、他のアプリを起動することもできないようだったが、じゅりあは気にしなかった。
浮き浮きとした気分で、家へと帰った。
最初のコメントを投稿しよう!