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生臭い風が吹いている。
部屋の中だ。扉も窓も締め切っている。なのに風が吹いている。
アラームが鳴っている。
陸くんの天使が来る時間、その五分前。つまりは22時55分。
暗がりの中で起き上がり、勉強机の上で充電中のスマホに触れる。
はっとするほどに熱い。
アラームが止まる。
画面がぐにゃりとゆがみ、文字列が浮かび上がる。
『天使のインストールが終了しました』
部屋の中は蒸し暑いほどなのに、じゅりあはなぜか寒気を感じた。
背後で渦巻いていた風が静かになる。
消えたわけではない。風は何か別なものになって、そこにわだかまっている。
6インチの液晶が青白く光る。
『RIKUさんの天使をお出迎えしました』
『ミニゲームを選択してください』
画面中央にアイコンがいくつか現れる。その中からダイスポーカーを選んだ。
勝って、負けて、勝った。
派手なエフェクトがあるわけでもない、淡々としたゲームだった。
『おめでとう。あなたの勝ちです』
小さくそんな文字列が浮かび上がって、そして画面が暗くなった。
RESULT>撃破した天使 イェルミエル 奪った時間 12:28 あなたの残り時間 35:42
見たことのない白いフォントが、意味のわからない情報を伝えてきた。
「私の、残り時間?」
スマホの画面から目を離すことができないまま、じゅりあはそうつぶやいた。部屋の空気はもう暑くも寒くもない。
ただ、鼻の奥にかすかに腐臭めいたものを感じるだけだ。
勉強机の上で、またスマホの表示が動く。
あなたの残り時間 35:41
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