エンジェルインストール

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 同時刻。霊科研の借り上げた、古びた民家のバスルーム。  蘇芳はシャワーを止めた。住宅街に満ちた霊子放射の雲の中に、稲妻めいたものが閃くのを感じたのだ。  裸足でリビングに向かう。  山南はノートのディスプレイを見つめたまま、振り返りもしない。 「何か気づいたか。7番のトランスミッターが妙な動きをしてる」  7番。確か、十一、二歳の男の子だった。 「霊子線放射が0.24秒止まって、そのあともとに戻っているんだ」 「計器の故障では?」 「原理的にありえない。あれはいったん壊れたらそれっきりだ。再度霊子線を拾えるようにはできていない」 「逆位相の波をぶつければ波動を消すことはできるんじゃない」 「理屈の上ではな。だが、誰が、何のためにだ? 霊科研の装置がなければそんなことはできないはずだ」 「じゃあ、見た通りのことが起こったんでしょうね」 「見た通り?」 「0.24秒の仮死状態、さもなければ憑依」 「憑依? 何のだ?」 「さあ?——これがその観測値?」  蘇芳はテーブルの上に身を乗り出し、ノートのディスプレイを覗き込んだ。 「そうだ。そうだが——おまえ、いい加減にまともな服着ろよ」  山南にそう言われ、自分の身体を見下ろす。ごく普通のバスローブ姿だ。 「着てるじゃない」 「俺が落ち着かないんだよ」  相手にせず、勝手にマウスをいじり画面をスクロールさせる。 「1番は何? 7番と同じタイミングで霊子線放射が上昇してるけれど」 「うーん、瞬間的なものだし、誤差の範囲ではあるんだがな」 「こういう相関、他にもないかな」 「気になるか?」 「調べられる? たしか、1番も小学生だったと思う」 「やってみよう」 「ありが……くしゅっ!」  くしゃみが出た。 「やっぱ、服着てくるわ」 「ああ。ていうか、とっとと寝ろ」  うん、とうなずいて、入浴前にテーブルに置いていた自分のスマホを拾おうとした。  そのときだった。  まだアイデアとも言えない漠然とした何かが、蘇芳に降ってきたのは。        
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