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三上陸のスマホの液晶には
あなたの残り時間 0:00
の文字列が表示されていた。
陸の意識は途絶し、消失した。0.24秒後、天使が彼の記憶と自我を掌握した。
天使は顔の高さまでその手を持ち上げ、一本ずつ指を握りこみ、拳をつくり、また手を開いた。
もう一方の手でその掌に触れた。指先が掌に食い込み、血が流れだした。痛みと呼ばれる感覚が生じるのを認識し、天使は指の力を抜いた。
シーツに赤い体液が滴り落ちたが、天使は気にしなかった。
意図した動きと、肉体の反応のずれをキャリブレートしていく。その反復を、飽くことなく繰り返した。
数時間後、天使は身体操作の大半を把握していた。天使は歩行し、言語を操り、通信端末を操作することができた。
脳に存在した三上陸の人格と記憶は、すべて保存されており、今や天使は、陸そのものとして振る舞うことができた。
そして、それ以上のことも。
天使は黒いゲル状のもので窓に付着した、直径9ミリ程度の円筒を見出した。天使の拡大された知覚を用いるなら、それが何らかの測定と通信を行う装置であることは明らかであった。
天使は窓に押し当てた掌から、電磁波を放射し、その円筒に集中させた。
数十秒の後、かすかな火花を発して、円筒体は窓から落下していった。
天使は大脳の長期記憶を参照し、発声する。
「何がおきても、おとなのひとにはぜったいにひみつにすること」
天使は物理世界でやるべきことを見出し、そして、戦闘態勢に入った。
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