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「5G帯のトラフィックの測定?」
山南が問い返し、蘇芳が頷いた。
「それは総務省の管轄だ。我々はデータを持っていないし、データベースにアクセスする権限もない。書類を揃えて本部に要請して、本部が役所に問い合わせて、答えが返って来るかどうかはあちらさんの気分次第だ。何を思いついたか知らんが、現実的な手段じゃないな」
「そう……」
「何を気にしてる?」
「携帯電話を通して、霊子構造体を複写できないかな、と思ったの」
「できるかできないかで言えば、できるかも、といったところだ。正直、小型の霊子モジュールを秘密裏に端末に組み込んでいても、純粋な電子機器との区別はつかない。だが、そんなことをするメリットはなんだ。コストに見合うメリットは」
「霊子ウィルスのようなものが存在するならば……」
「いずれにしても、我々の役目は調査、情報収集だ。分析や推論は他所でやる。おまえたち能力者の直感を侮るなとは言われているがな、裏付けのとりようのないことについて、今考えてもあまり意味はないんじゃないか」
「本部や官庁のペースでやっていては、取り返しのつかない事態になるとは思いませんか」
「だからといって、実際問題何ができる」
「休暇をください。私人として行動する機会を」
子供たちと直接接触する。あるいは、携帯端末を盗み出し、クラックする。
どちらも不可能ではない。ただ、露見すれば警察も組織も味方になってくれない。それだけのことだ。
だから山南は蘇芳の意図を尋ねなかった。
「許可する」
そう言いかけたときだ。
二階にいた西村が階段を駆け下りてきた。
「まずいぞ、窓の外を見ろ!」
西村はそう叫んだ。
山南は立ち上がり、カーテンの隙間から外を覗いた。
予想だにしない光景が、そこに広がっていた。
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