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霊科研は原則的に、特定の個人や集団と敵対するようなことはしない。霊子トランスミッターを打ち込むための銃を持ってはいても、生きた人間を傷つけ得る弾丸は所持していないし、その権限もない。危険な霊子構造体を無害化する過程で自衛の必要が生じたときのための、最低限の装備は備えているが、多くの場合、それは生身の人間を殺傷できるようなものではない。
山南はリビングのカーテンを二センチほど開いた。PCにカメラをつなぎ、そのレンズを窓の外に向けた。市販のカメラではないが、専門の暗視装置がついているわけではない。赤外線波長域をとらえることができるだけだ。
カーテンの隙間を中心に、カメラを半円の軌道を描くように移動させた。肉眼では、おぼろな影が集まっているとしかとらえられない。しかし、PCのモニターに映し出された処理済みの映像には、はっきりと映っていた。
彼らの拠点を取り巻く、数十人の子供たちの姿が。
赤外線映像だからシルエットしかわからないが、全員の身長が、120センチから150センチの間に収まっていた。小学生から中学生にかけての少年少女、そうとらえるのが自然だった。
カメラを他の部屋にも移動させ、建物全周の画像を撮ったが、大人らしい姿は一つも映らなかった。
現在時刻は深夜2時57分。
子供たちが自発的に起き出してくるような時間帯ではありえない。
モニターに映るいくつもの赤い影は、どれも身動き一つしない。拠点をとりかこんで立ち尽くしているだけだ。
遠くの路上を、大型トラックが走り抜ける音。
消えかけた街灯が点滅する音。
PCのファンが回る。
小さな赤い影の群れは、静まり返っている。
その画像に、突然ノイズが走った。
映像は見る間に崩れ、無秩序な色彩のモザイクに変わる。
山南は刺すような頭痛と眩暈に襲われ、うずくまった。見上げると、西村も苦し気な様子で頭をおさえている。その長身が不意にぐらりと揺れ、倒れた。
——電磁波か?
わからない。
何が起きているのかわからないまま、山南の意識は途絶えた……
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