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菱形の夢
人に押し潰されながら必至で掴む吊り革。痴漢の冤罪などかけられては、たまったものではないから両手で掴む。電車内は香水の匂いやら整髪料の匂いやらで息苦しい。エアコンは冷えすぎるくらい効いているというのに汗の匂いも鼻をつく。ふうとため息を一つ。
その瞬間、目を覚ました。ああ、まただ。スマホのアラームを止めて現実でもふうとため息をつく。額を拭うと汗の滴が腕にまとう。睡眠時間はそれほど短くはないが、最近毎晩電車に揺られるリアルな通勤の夢を見るせいで身体的にも精神的にも疲労は全く取れやしない。
「何なんだよ!」
学生生活を終えて社会人になれば、それなりに自分の時間や趣味が持てると思っていた。だが、自分の時間が一番あるのは学生のときだった。勤めてる会社は給料は安いがブラックと言えるほどの闇ではない。まだ、親元から会社に通う俺はまだ社会の黒さの洗礼を受けてはいない。
両親と顔を合わせてから、疲れた肩を落としながら今日も満員電車に揺られに行く。吊り革は両手で掴み充満する多種多様な匂いと冷えすぎるエアコンの風を身に受けて三十分揺られる。まさに夢の通り。平日で一番疲れる時間は電車に乗っている時間だ。それが夢の中でまで再現されるのだからたまったものではない。これはストレスなのだろうか。何かしらの病気ではないだろうか。とは思っても仕事が辛い訳でも人間関係に悩んでいる訳でも身体に異変がある訳でもない。
「ちくしょう」
ただ小さく吐き捨てるしかなかった。
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