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駅前は賑やかに雑踏が響く。ちょうど帰宅のラッシュなのだから、駅に向かう人に寄り道をする人に客を呼ぶ声。今の状態でなかったら、気分もあがる時刻だろうが、その中、地図をジッと見て夢整堂に向かう。雑踏から少し離れた寂れたビル街。ビルとビルの間の路地の奥にそこはポツンと佇んでいた。
寂れた一軒家の前に夢整堂と書かれた表札がある。そこの前でしばらく止まってしまう。入りづらいことこの上ない。灯りさえついていないのだから、留守の可能性もある。日が沈んだ中、灯りもついてないとは。
だが悩んでばかりもいられない。インターフォンがないので、ガラガラと引き戸を開けて声を出す。
「ごめんください!」
中もしんと静まり返っている。玄関脇に置かれた狸の置物がやたらと怖く見えてしまう。
「ごめんください!」
もう一度叫ぶ。
「どなた?」
いきなり後ろから声がしたため、俺は咄嗟に飛のいてしまった。
「ちょっと訪ねてきて驚くとか失礼じゃない?」
後ろに立っていたのは二十代ほどの女性。その身には白衣をまとっているが、ぶら下げているレジ袋から缶チューハイが見える。
「すいません。驚いてしまって。あの夢整堂の方ですか?」
「ええ。私が夢整堂の主です。夢の関係ですか?」
「はい……」
「では、上がってください」
主はそう言うとつっかけを脱ぎ捨ててスリッパに履き替える。脱ぎ捨てたつっかけはたたきに無造作に転がっている。だらしない人だ。主の第一印象はその言葉以外出なかった。
俺も靴を脱ぎ、揃え、主に続いてスリッパをはく。来客用のスリッパさえ揃っておらず一瞬ためらったが、そうも言ってられない。
主は灯りをつけながら奥に進む。
「ごめんねぇ。今日は本業休みだったから酒かっくらって早寝しようとしてたものだから。夢整堂のお客なんて年に数人だしさぁ。まぁ予約制でもないから、突然に来るのは当たり前なんだけどねぇ」
ケラケラと笑う主。主が一番奥の部屋の灯りをつける。そこはまさに診察室だった。デスクにカルテらしきものに簡易のベッド。椅子には聴診器もかけてある。主は椅子に座って聴診器を首にかける。
「では座って。診察をはじめます」
おずおずと椅子に座る。主はまず俺の両目を目を凝らしてみる。
「寝不足気味だね」
「寝れてはいるんです……。ただ夢見が悪くて……」
「悪夢でも見るの?」
「悪夢といえば悪夢かもしれないですが、違うと言えば違う」
「ふうん。ちょっと聴診器あてるね。服めくって」
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