6人が本棚に入れています
本棚に追加
「目を開けていいですよ」
俺はゆっくりと目を開ける。そこはさっきと同じ診察室。主は片手に手のひらサイズの輪っかを持ち、片手に菱形の宝石らしきものを持っていた。
「何ですか、それは?」
正直、何を遊んでいるだと思ってしまったが、主は火に油を注ぐように口角をあげる。
「こっちの輪っかは夢を引っこ抜く道具でこちらの宝石はあなたの夢が具現化したものです。いやぁあなた、大分真面目なんですね。こんなに綺麗な菱形はなかなか出ないんですから」
「ふざけているんですか?」
腹が立つ。こちらは藁を掴む覚悟でここに来たというのに。さらに文句を言ってやろうと口を開けようとしたその時、額に菱形の宝石をあてられる。瞬間、満員電車の夢が見える。主はすぐに宝石を離す。するとその夢は消える。
「嘘でもなんでもありません。私が夢を整えるのは、この輪っかで悪夢を引っこ抜けるからです。まぁこの道具も親父の形見ですが、これをできるのは私だけなんですよ」
まるでファンタジーだ。それこそすこしふしぎの世界だ。そんなものが現実にあるのか。
「ところでこれいります? 希望者にはアクセサリーにして持たせているんですが、お守りにもなりますよ」
「そんな適当な……」
「適当なんかじゃないです。いいですか。夢ってのは整合性のとれない状態が普通です。整合性がとれないからこそ、起床時のストレスや抑圧や欲望を抑える役目がある。その夢に整合性がとれてしまったあなたの夢は、あなたが真面目で現状に不満や不安がないからこそ表れたものです。夢の宝石は形が整っているほど整合性がとれた夢の証明です。整合性が全くとれない荒唐無稽な悪夢の夢の宝石の形は歪なんですよ。この夢の宝石がこんなに綺麗なのは、あなたが努力家であるからなんですよ。その結晶はあなたの背中を後押しするお守りになります!」
主は興奮気味にまくし立てた。恥ずかしくも感じるが褒められて悪い気はしない。だが、お守りとしているかどうかは微妙だ。
「もしいらないって言ったらそれはどうするんですか?」
主は歯を見せて悪い顔をする。
「アクセサリーにして売ります。いやぁ夢の宝石っていい値で売れるんですよ! しかも夢の宝石を扱えるのは世界で私だけ! だから夢整堂は無料なんですよ! 夢の宝石売ればがっつり懐に入りますからねぇ!」
「持ち帰ります! アクセサリーにしてください!」
正直、自分にとっての悪夢が人手に渡ることも売られることも我慢ならない。さっきみたいに額にあてて、他人が悪夢を見る可能性もある。
最初のコメントを投稿しよう!