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「了解しました。まぁアクセサリーにするまではちょっと日を跨ぎますけど、取りに来ます? それとも郵送にします?」
「取りに来ます。俺はまだ完全に信用した訳じゃないです。本当に満員電車の夢を見なくなったかどうか確認します。あなたがヤブ医者じゃないかどうかを確かめるためにね」
「やだなぁ。私、医者じゃないですから。診察室なんて言ってますが。本業はアクセサリー屋だし」
「……細かいことはもういいです。あなたがちゃらんぽらんなのもよく分かりました。とりあえずアクセサリーはお願いしますから。では失礼します」
服装を整えて、椅子から立つと主はひらひらと手を振る。
「三日後においでください。できれば私が酒をかっ食らう前に」
俺はそれには答えずに外に出た。夜はしっかり更けていた。腕時計で時刻を確認するとすでに二十一時。今夜の睡眠時間はいつもより短めにしなければならない。足早に駅に向かい、満員電車ではない電車で帰路につく。家についたのは二十二時過ぎ。すぐに風呂に入り、食事も取らずに眠りにつく。
夢だ。まぶたを閉じて見えた光景にすぐにそう判断した。子供になった俺が大人の俺と手を繋いで歩いている。お菓子の街に、海の上に、雲の中。その夢は楽しくて、夢の中だというのに笑っているのが分かった。じゃあ宇宙まで歩こうかとなったときにスマホのアラームが鳴り、俺は目を覚ました。
「あれ?」
肉体的にも精神的にも疲労感がとれているのを感じた。目覚めもスッキリとしていて、いつもより睡眠時間が短かったとは思えなかった。もちろん満員電車の夢は欠片もなく、主が言ったように整合性のない夢しか見なかった。
「これは本当なのか……」
本当かどうかはもう一晩の夢を見てからと思い、次の夜も眠りにつく。その日も夢は見た。猫やうさぎや犬とレジャーシートの上でホットチョコレートを飲みながら、映画を見る夢。映画は幼い頃から何度も見たアニメ映画。夢の中で俺は映画に感動して泣いていた。映画のエンドロールを見ながらブラボーと叫んだとき、スマホのアラームで目を覚ました。
「はは。変な夢」
ついそう呟いたが心は軽くなっていた。これは本物だ。夢の温かさと処置の確かさ。どちらに確認して、全てが事実だと認めざるを得なかった。
言われた通りに三日後に俺は夢整堂に向かう。夢の宝石がお守りになると言うのも本当だろう。再びビルの間にひっそり佇む寂れた民家の入口で俺は叫ぶ。
「ごめんください」
やはり返答はないが、どうせ待ってりゃ来る。しばらく待ちぼうけをしていると主は予想通りにレジ袋を下げて後ろから現れた。
「おう来たか。あんたが来る前に酒を先に買っておこうと思ってねぇ」
「だと思いました。改めてありがとうございます。満員電車の夢は見なくなりました」
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