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入ってきた男二人は滝本たちとは少し離れたテーブルに座り、口論を始める。
「俺が優子に振られたのはお前のせいだ」
がらの悪そうな男はおとなしそうな男をにらむ。
「違う。優子さんにはすでに彼氏がいるんだ」
「その彼氏というのはお前のことなんだろう?」
「それも違う。僕だって振られたんだから」
「そんな嘘には引っかからないぞ。現に優子とお前がふたりきりで話しているところを見たんだからな」
と、そのとき、がらの悪そうな男が七瀬たちの存在に気がつく。
七瀬を見て、興味を覚えたようだ。
七瀬にいやらしい視線を送る。
滝本は無意識に立ち上がっていた。
「この女性には指一本触れるな。ケンカはよそでやってくれ」
滝本の表情には、口調よりも激しい迫力があった。
その迫力に押されたようで、がらの悪そうな男は、
「おい、行くぞ」
と、おとなしそうな男とともにラウンジを去っていった。
滝本は、はかない美しさを持った七瀬綾という女性に対して、恋したう気持ちというよりは、慈しむ気持ちをいだいている。
「私、船室でひとりになりたい。でも、さっきの男たちが心配だから、私の船室の前まで一緒に来てほしいの」
滝本は、七瀬の安全を確認しながら船室まで付き添った。
そして、滝本も自分の船室に戻り、七瀬のことを考えた。
七瀬は不安そうでドキドキしている。
なぜ、がらの悪そうな男とおとなしそうな男が入ってきたとき、さらに不安そうになり、かなりドキドキしているように見えたのか?
知り合いではないだろう。
謎は深まるばかりだ。
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