第三章

2/2
前へ
/7ページ
次へ
七瀬は滝本の心の内を把握して、 「そう。私は人の心が読めるの。つまり、テレパシーね。私が不安そうでドキドキしていた理由、それは人間は自分のことしか考えないし、自分の利益ばかりを求めて人を利用しようとする。そのことが常に私の心に伝わってしまうから」 七瀬は険しい表情で、 「男性からはいやらしい思い、女性からは嫉妬など、つらい思いばかりだった。私には関係のない思いでも、他人を憎む、ねたむ、うとむ、出し抜く。そんな思念にさらされて、私は不安でドキドキしていたわ」 「つらかったですね。それで、人のほとんどいない無人島を選んだんですね」 滝本は七瀬を守りたい、そう思っている。 「ありがとう、私のことを守って欲しい。あなただけよ、私にいやらしい思いをいだかなかった男性は。これまで他人におびえてドキドキしていたけれど、今は初めて感じるドキドキだわ。あなたのことを想ってね。このドキドキの理由、何て言うのだろう」 「ドキドキの理由、人はそれを恋と言うのだよ」 滝本は笑顔になる。 「そう、なのね。お願い、私と付き合って欲しい」 七瀬は爽やかな表情をしている。 「嬉しいよ。でも、僕の心はあなたに愛されるほどきれいだろうか」 「もちろんきれいよ。あなたのことが好き」 「ありがとう。好きだよ、僕も」 滝本と七瀬は、胸の高鳴りがおさえられなかった。なぜなら、互いに愛する者に出逢えたから。 * こうして、滝本涼吾と七瀬綾のお付き合いが始まった。 ふたりは、誠実な関係を築いていくことだろう。 この三日間での出来事で、ふたりが一番ドキドキした理由、それは互いに愛する者に出逢えた胸の高鳴りだ。 このドキドキの理由をきっとふたりは忘れない。 了
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加