出会いからの芽生え

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出会いからの芽生え

 勇斗が振り返ると、敏子を助けた女性と目が合う。それもそのはず、勇斗の妙技をじっと見つめていたからだ。女性の瞳がハートの形をしていた。そんな彼女を見て、勇斗は思い出したかのように言った。 「あ、そうだ。すみません、母を助けていただいたようで、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」  女性は、この上ない宝物でも見つけたかのように、勇斗の顔から目を外さない。勇斗はもう一度話しかけた。 「あのぉ、もしもし? 大丈夫ですか?」 「え? あ、ご迷惑だなんて、全然そんなことありませんよ」 「そうですか? でも瞳孔が変形していますよ」 「瞳孔が変形?」 「そうです。水晶体を覆っている瞳孔です。あれって形が変わるんですよ。瞳孔が開くって謂うじゃないですか」 「確かに。大きさが変わりますね」 「ええ、人間の目は面白くて、極度にある感情に囚われると、その感情に合わせて瞳孔が部分的に変形するんです」 「どういうことでしょうか?」と、女性は首を傾げ、勇斗の話を親身に聞いている。 「例えば、ワクワクするものを見たりすると、瞳が星のようにダイヤ形状になるじゃないですか。あれですよ」 「あぁ、あれですか!」彼女は、(ひとみ)を大きく開き何度も頷いた。 「それで今のあなたの瞳孔は、ハートの形になっていますよ」 「え!」  女性の頬が瞬く間に紅潮する。固く瞼を閉じ、フルフルと頭を振った。偶然出会った勇斗に、女性の中である想いが芽生えてしまった。
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