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詩:4-2
偽物の月の満ち欠けを水面に滑らせる。
刻み散らされる音楽と、洗面器の縁から溢れる水。零れた血も戻り、私が人魚だった頃に景色が復旧していく。
私は物語の表層を漂ってその様子を眺めている。この世界は更に秋から初夏へ逆巻で戻っている。そのテンポは浴室に置かれた心電図に合わせて。ぴっぴっと。
私の指先はあやふやになり、水かきの部分が広がっていく。足に至っては銀色の鱗に覆われて、包まれて。尾鰭が扇子を広げたようにふぁさりと開く。
そして胸元には浮き上がる心臓。
それを私は圧縮ソフトを使って食べてしまう。ドラッグ&ドロップで洗面器に移して。薔薇のベッドに横たえて。横のメモ帳には言葉を残している。彼の代わりに私がこれを預かるの。
彼は実在しない。石像に恋をするようにピグマリオン。私の中の未来のイヴ。ランダムに生成される言葉を、イラストを繋いでできた夢。
私の不出来な失恋。
私は浴槽から顔を上げると、天井側に水が溜まっていた。その向こうに誰かがいるような気がする。笑っているのか、泣いているのか。
解凍されて、魚の目がぎろりと私を見つめた。
春の日に失った顔のない誰か。それは言葉の中で交わした幻想だ。私を文字で犯して、洗脳した。打ち捨てられた私は太古の儀式のように、貴方を召喚する。生贄は私の心臓。
貴方が貴方のやり方で、私は私の見様見真似で。消費して、パッチワークする。
繋いだ貴方に一つだけない心臓を、知らないふりして私のをあげる。
とくとくとくと。鳴っている理由なんて。そんなの一つしかないくせに。
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