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望まぬ運はありますか
「いらっしゃい」
1人の女が、ドアベルに反応し振り向いた。さらりと揺れる黒い長髪。身に纏う衣服は同じく黒。そこから覗く肌は白い。モダンな内装と照明の暗さも相まってか、ここは不思議な場所へ来たと錯覚させられる。
「あの、依頼で聞いたんですけど…運を操れるって本当ですか?」
「どうぞ、中へお入りください」
これは、私が誰かのために運を売る店__願い屋を開くきっかけとなったお話である。
⁂⁂⁂
人生は、山あり谷ありで構成されているらしい。
いいことがあれば必ず悪いこともある。つまりは、いい出来事を集めたアルバムと、悪い事を集めたアルバムを比べてみるとあら不思議、同じボリュームになると言うことである。
「んなわけあるか。ってて」
書店の窓に貼られた発売予定の書籍内容をチラ見していたところで電柱にぶつかった。ブツブツと文句を言いながらまだ朝なのに何回目かわからないため息を吐く。
自分の不幸体質に気づいたのは、小学校低学年の時。遠足前日の夜の出来事がきっかけだ。何となく窓の外を見て、明日はきっと晴れだなー楽しみだなーなんて思った瞬間に雨雲がかかった。一瞬の瞬きの間に起きた事である。そのあまりに早い天候の変化に私だけ時間が止まったのかと思った。
兎に角、その不可解な出来事があってから私の人生は変わった。徐々に不幸の回数も増え、同時にレベルも上がってきている。つい最近まで骨折していたのがその証拠。寿命が近いのかもしれないと本気で思っている。
そんな私、憂原 伊里音は今年で高校三年生。進路希望は取り敢えず就職と書いて提出したが進展はなく夏を迎えようとしている。
「憂原。今日こそ進路について話してもらう!お前だけだぞ就職先を探している素振りもなくただ学校きてるだけなのは。先生心配だ」
「じゃあ実家継ぎます」
「じゃあって何だじゃあって…そもそもお前の実家は自営業じゃないだろうが!先生はお前の将来が心配だ」
「奇遇ですね先生。私も心配です。私の人生が」
正確には命がである。
「そうかそうか、何か悩みがあるなら聞くぞ」と更に熱血モードに入りそうな担任を通過して後ろから教室に入る。自分の席を目指すが、いつものように人だかりが私の席への道を阻んでいた。
私の席は、一番前の席の真ん中、教師が目の前に来る席だ。きっと座りたくない席の位置No. 1である。こんな所でも不幸を引くとは、もう笑ってしまったよね。人だかりの中心はそんな不幸な席の前、少し距離の空いた所にある教卓だ。人だかりは毎回私の席の近くを侵食するほどの人数でできている。
「え、凄い!また特賞当たったの!?いいなー、そのグッズマジで当たらないんだよねー」
「あげる。2個目だし」
「え、良いのー!?やったー流石は幸運の女神だね。ラッキー」
「その呼び方やめてよ、もー」
特賞かぁ。永遠に縁のない代物だな。私は外れた事しかない。ハズレがないくじでも私が苦手なものとか要らないものしか当たった事がない。
苦笑しながら幸運の女神呼びを否定するのは、このクラス1の人気者。スクールカーストの上位に入る女子、橘 美知だ。興味がなくても入ってくる橘さんを交えた会話は、大抵が凄い運の良い出来事を経験した橘さんに目ざとく気付く取り巻きによって始まる。
「美知、おはよ」
「はよー秋。昨日のテレビ見た?」
人だかりをものともせず橘さんの隣まで来たのは、千草 秋と言う2人目のカースト上位女子。しかも美人だけど結構きつめの性格である。そんな彼女の登場に、取り巻きたちは一斉に散っていった。ここで居座ると必ず千草さんに睨まれて追い払われるからだ。我先にと散っていく速さはまるで蜘蛛のようである。…悪口ではない。ただの例えだ。
1人でいる時間が長いせいか、どうでもいい会話の収穫だけが増え、こうして心の中での独り言が増えていく。はぁ、早く帰りたい。そんな気分のまま授業を受け、お昼を食べ、いつもと何ら変わりのない学校生活を送った。
気づけば放課後、今日はどこ行くとはしゃぐクラスメイトを流し見ていた。私はあの担任に呼び出しをくらい憂鬱である。今日の疲れが出たのか、机に突っ伏し外の音をシャットダウンするように頭を腕で囲い込んだ。
「……ん、…い原さん?憂原さーん」
静寂に差し込んできた声に視線をあげると、「あ、起きた」と言って笑う橘さんの顔面が至近距離にあった。思わずのけ反った拍子にコントかと思うくらい綺麗に椅子ごと後ろに傾き、倒れるなともはや他人事のようにこれからくる痛みを冷静に受け入れた私。けどそれは、咄嗟に腕を掴まれた事で変わる。驚きすぎて目を全開まで開いていた私の顔が面白かったのか、橘さんは笑いながら「大丈夫?」と声をかけてきた。
「お陰様で…ありがとう」
「ううん。倒れなくてよかったねー。コントかと思った」
暫く笑い続けた彼女は、黙っている私に気付くと我に帰り両手を合わせパチンと鳴らした。
「そうそう。橘さん、最近この近くのコンビニの景品引いた?」
突然の話題に頭がはてなで埋まる。
「これのさ、ハズレ余ってたりしないかな、と思って…この前偶々ハズレ引いてるの見ちゃったから。多分憂原さんだったと思うんだけど、よければ特賞のと交換してくれないかな、って思ってたんだよね」
「はぁ、なるほど?」
確かに、一昨日私も何となく今日はハズレ以外引くかもというよくわからない自信が湧いてきて引いたけど…しかもハズレが出たのに諦めきれずにもう一回。
「交換するの、嫌、かな?」
恐る恐るこちらを伺う橘さん。全然良いんだけど、これ、そんな欲しいかな?
私は、カバンの中に入れっぱなしにしていた景品を取り出した。途端に目を輝かせる橘さんに、変わってるなと思った。このハズレ景品、本当に商品自体もハズレだからだ。ハズレだけどまぁ良いかなと思えるレベルではない。要らないに入るレベルの景品だ。橘さんは、これがどうしても欲しいらしい。
「私、結構な回数引いてるんだけど、ハズレが出なくて…」
あー、ね。流石は幸運の女神。
「周りの子もハズレ引いても直ぐ捨てちゃう人が多かったから駄目元で聞いたんだけど、聞いてみてよかったー」
「実はもう一つあったりして」
「え、本当!?凄い!!」
全く凄くはないんだけど、こんなに尊敬の眼差しを向けられたのは初めてで、こそばゆい気持ちになる。
「両方あげる。とっとくつもりなかったし」
差し出した手を両手で包むように握り込まれ、それはそれは仰々しく受け取った橘さん。やっぱり変わってるな。思ったより面白い人なのかも。
本当にありがとうと何度も言ってから教室を後にした橘さん。何だか、ハズレを引いた事は不幸だと思ったけど、そのおかげで良い思いができた。ふと、今朝見た人生山あり谷ありという言葉を思い出す。まぁ、完全に否定するのは良くないかも。
その後、熱血担任による熱弁に疲れ果てた私は、母親にただいまと告げてから自室のベッドに直行。そのままダイブした。カバンはその辺に投げ捨てられ、その拍子に飛び出した特賞景品。暫く見つめた後、起き上がった私はそれを何となく机に置いてみた。
「なんか、輝いてる?」
絶対に気のせいだが心なしか幸運オーラを纏っている気がする。こう、ご利益ありますよ、的な。
「はぁ。馬鹿らし、寝よ」
「おはよー憂原さん!昨日はマジありがとう!」
翌朝、橘さんから朝の挨拶を貰った。久しぶりに交わすおはようにビビった私は「お、おう、おはよ」という好きな子からの挨拶にきょどる男のような返しをしてしまった。それを気にする事なく先に教室に入った橘さんは、恒例の取り巻きによる出迎えに合っている。どんどんと群がるその光景は街灯に群がるハエのようだ。…悪口ではない。今日は、直後現れた千草さんにより直様解散となっていた。
「あれ、ハズレの景品だ。珍しい。っていうかまだ持ってるの?需要ないじゃんそれ」
「えーそうかなー?私これ好きなんだよね」「え、それが好きなのか。へぇ」
何気ないやりとり。けれど、私は何故か少し心が浮だった。私の不幸が、掬い上げられたような気がしたのかもしれない。
「ていうか私が引いたんじゃなくて交換して貰ったの。ね、憂原さん!」
「、っう''、う、うん。昨日ね」
急に会話に引き摺り出され、咽せそうになった。そしてそれを聞いていた千草さんの視線が物凄く痛い。早くこの時間よ去ってくれと願いながら視線の痛みに耐え抜いた私は、その日の放課後、昨日とは打って変わり冷や汗をダラダラと流していた。
「聞いてんの?」
「はい、聞いております」
高身長の千草さんに上から睨みつけられた私は、必死に床と睨めっこをしていた。
今日は呼び出しもなく直ぐに帰れると思ったら、まさかの千草さんから呼び出しを食らったのだ。しかも、他の人にバレないようにしたのか、すれ違いざまに「先帰ったら殴る」と脅迫される形で。私は普通の女の子なので直ぐに自分の席に戻りました。いや、これ帰れる人いないでしょ。千草さん言う事本気でやるタイプだと思う。
「何であんたが美知と景品交換すんの。交流ないよね?」
「景品を介して交流ができたと言うか」
「は?関わりない奴といきなり?」
「それこそ何で」と続ける千草さんに私の方こそ何でと言いたかった。貴女、何故そこまで景品交換しただけなのにいちゃもんつけるの。
「…美知から、声かけたの」
「うん、まぁ」
肯定するものの、きっと信じてもらえないだろうと明後日の方向を見ていた私は、返事がない事に怖くなり黙ってしまった千草さんを一瞥した。めちゃくちゃしかめ面をしていた。
何か言われると身構えた瞬間、踵を返して教室を出て行ってしまった。
「え、ちょ…えー…」
残された私の可哀想な事。勘弁してくれ。
しかし、私の可哀想はここで終わらなかった。
「あぁ、ごめん」
「いや、大丈夫デス」
肩がぶつかり、明らかに心の篭っていない謝罪にもう何回目かになるノープロブレムを返す。千草さんに呼び出しを食らってからする事が増えたこの一連の会話。完全に当たり屋行為である。最早無になりつつある私は、前よりため息が深くなった。
「憂原さん憂原さん、ちょっといい?」
千草さんが死角に消えた瞬間、橘さんが階段の影から顔だけを出して手招きしてきた。またもや呼び出し。最近多いなと遠い目になりながら、私は橘さんのいる階段下の窪みに入った。
「ごめんね」
「え?」
「秋の事。何か当たり屋されてるでしょ、憂原さん」
まさかの橘さんも当たり屋認定だった。
開口一番に謝罪した橘さんは、私のポカンとした顔を見て苦笑いを浮かべた。
「前も何回かあったんだよねー。私と急に話すようになったりした子が秋から当たりが強くなったり憂原さんみたいにぶつかられたりするの。止めるようには言うんだけど、何のこと?ってはぐらかされちゃって…その、被害者側の憂原さんにとってはどうでもいい事なんだけど、秋も根から悪い子なわけじゃなくて、私の事気に入ってるからというか、その、多分取られたとか思うとこうなるみたいで…」
「本当にごめんなさい」そう頭を下げる橘さんに、いやいやと首を振る。完全に千草さんが悪いのであって橘さんがわざわざ謝ることじゃない。
「いいよ。まぁ、肩は痛いけどそのうちなくなるでしょ」
「それダメなやつー!今回なんかいつもよりやな感じだから心配なんだよね。憂原さんの事も秋の事も」
「そうなんだ。何か大変そうだね」
「んー。秋の事嫌いじゃないんだけどさ、時々どうしたらいいかわかんなくなるんだよね」
眉をへの字にして笑う橘さんに、いつもの幸運の女神らしさはなかった。
「私、自分で言うのもなんだけど運いいじゃん?だから結構恵まれてきたと思うんだけどさ、それきっかけで増えた友達関係ってすごく多くて。凄いねーとか、運いいねーとかがいつの間にか私もあやかりたいとか、そんな理由で連むようになってる時もあって…何だかなーって思うんだよね。秋もさ、あからさまじゃないけどそういうのたまに感じちゃう。気のせいならいいんだけど」
悲しげな横顔を横目に、私は自分の不幸について思い返していた。
私も、最初は雨女なんじゃない?とか、くじ運悪いねーとか笑いになるような反応だった。けどそれがいつしか、また雨?憂原いるからじゃねとか、運悪いのうつりそうとか、そういうよくない反応に変わっていった。
「…私は、逆かも」
そんな事を思い出していたからか、気づいたら私も自分の事を話していた。
「昔から運が悪くて。何か一緒にいると運悪くなるからって離れていかれる事とかあったから。だから、今はそんなに積極的に関わったり会話したりしてない」
「そうなんだ…じゃあ、今私と話してるのって結構レア?」
頷くと、私やっぱり運いいねーと笑った橘さん。私も、何だかこの時間がおかしく思えてきて、久しぶりに声を出して本気で笑った。
「ね、暫く一緒に行動しない?」
「え?」
「私達、一緒にいたら運半分こでちょうど良くなるかも!」
まさかの提案に、またあの書籍紹介を思い出した。
山あり谷あり。橘さんが山で私が谷…。
平坦になった道まで想像できたところで、道の先に千草さんが立ち塞がり我に帰った。
「いや、それ千草さん相当怒るんじゃ…」
「正直、これを機に一旦離れるのもアリかなって。ずっとこんな事繰り返すのは高校でおしまいにしたい。大学も一緒だからさ、そこまで持ち越すのはちょっとねー」
頬をかきながらそう言った橘さん。私と一緒に行動するのはこの場かぎりの冗談ではないようだ。
今まで私から離れていった友人達の背中が脳裏をよぎる。そこに笑顔の橘さんがこちらを向いて立っているのが加わった。
「…うん。一緒にいてみよう」
こうして始まった橘さんと共にする学校生活は、周りをざわつかせた。
まず、休み時間に橘さんが千草さんではなく私と真っ先に会話した事にざわつき、橘さんがお昼ご飯一緒に食べようと私を誘ってざわつき、千草さんがそれを見て無言で教室を出たのにざわついた。
橘さんが千草さんを無視しているとかではないけど、明らかに私といる時間が長くなっている事に他のクラスメイト達は動揺し、混乱を隠せない様子だった。現に、橘さんの取り巻きでさえ1人もこちらに話しかける人はいない。
「思った以上の反応だったね」
呑気に笑う橘さんにそうだねと言って笑い返そうとした私は、遠くに千草さんがいるのが見えて口を閉じた。何か言いたそうにこちらを凝視している。
「あ、飲み物忘れた。すぐ取ってくるからちょい待ってて」
「え、ちょ、ま!?」
今1人にされたら私死ぬ!!殴られてボコボコになった私が多分ここに放置される!!
真っ青な顔でゆっくり千草さんが見えた方を振り返ると、案の定こちらに歩き出していた。と言うかもう近くまで来てる。
「……い」
終わった、と白目を剥いていた私は、目の前まできた千草さんから発せられたか細い声に現実世界へと意識を戻した。
「……な…い」
「えー、と」
「ごめんなさい」
「まさかの謝罪!」
「あ?」
「すいませんでした」
思ったことがつい口からこぼれ出てしまったけど仕方がない。まさか謝ってくるなんて思わないじゃん。秋は根が悪いわけじゃないという橘さんの言葉を思い出した。
「美知に、あんなふうに思われてるなんて知らなかった…」
拗ねたように呟く千草さんの言葉から、今朝橘さんとした会話を聞かれていたのだと気づいた。また青ざめる私の前で、千草さんは瞳を潤ませた。
「私、美知に喜んでもらいたくて。でも、ハズレが欲しいとか思わなかったし。知ってたらハズレ捨てなかったし。あんなにくじ引いたのに馬鹿みたいだ…」
うん。話が読めない。
ぽつりぽつりと話す千草さんの内容は恐らく景品の話なんだろうけど、いまいち何が言いたいのかが分からない。
「そしたら、ポッと出のあんたといつの間にか交換してるし。…美知には、あの取り巻きと同じ括りで認識されてたし。何それ。そんなわけないし。美知といると楽しいし、言葉きついの気にしないで話してくれるし、大好きなだけなのに」
唇を噛み締めそれは悔しそうにする千草さんは、相当橘さんの事が好きらしい。
「それ、本人に言いなよ…」
「言えない。私そう言うの本人に直接言えないんだよ。恥ずかしいし、聞かれたくないのもある」
頬を赤らめて私から視線を逸らした千草さんは、いつも周りから遠巻きに見られるような近寄り難さはなくて、年相応の可愛らしい女の子だった。
意外な一面にちょっとときめきを感じてしまった私は、そんな時でも不幸を発揮する。今回は、周りを巻き込む形で。
「私も、幸運くれる美知に幸運上げたいのに上手くいかない。もうどうすりゃいいんだよ」
「んー、それは解決しそう」
「は?どう言う事」
「うん。私、不幸だから」
更に意味がわからないと言う顔をする千草さんに後ろを振り向くよう伝える。まさかと言う顔で振り向く千草さんの視線の先には、少し気まずそうに、けど嬉しそうに佇む橘さんの姿があった。
「聞、いてた?」
「うん。バッチリ」
深いため息をついて蹲み込んだと思ったら、顔を覆う両腕の隙間からこちらを睨む千草さん。
「あんた、教えるタイミング遅い」
「違うよ秋。憂原さんのおかげで仲違いせずに済んだ、でしょ」
「何かごめん…私の不幸がこう、ね」
千草さんと同じ視線まで座り込みその頭を撫でていた橘さんは、次いで私を見て口を開いた。
「憂原さんの言う不幸って、誰かにとっても不幸に作用するわけじゃないと思うな」
そんな事、初めて言われた。
「まぁ、あんたの言う不幸続きがまぐれじゃなくて今日みたいに巻き込む事があるなら、色んな人の人生に関わってそうだな。良くも悪くも。憂原にしか出来ない関わり方だな」
続けて秋さんが。それも、初めて言われた。
「秋、ごめんね。ちょっと意地悪した」
「ううん。私も、上手くいかないの他人に八つ当たりしてきた。それ、美知にも迷惑だっでしょ。今更だけどごめん」
「いいよ。私に幸運くれるんでしょ?楽しみにしてるねー」
「うっさい。…絶対あげてやる」
目の前で会話する2人は、お互いの悩みが一気に解決し、私から見てもより仲が深まっているように見えた。
…これを、私の不幸が招いたんだ。
私の中で、不幸の捉え方が変わった瞬間だった。
「お昼、まだだよね?3人で食べよ」
仕切り直しのお昼休憩。3人横に並んでご飯を食べた。
「憂原ってさ、まだ就職先決めてないよね」
「な、何で知ってるの!?」
「あの担任が話してたら聞こえるっしょ。五月蝿いし」
「あー、ね。うん、決まっておりません」
「だったらさ、その不幸とやら、有効活用できる仕事ついたら」
「え、そんな仕事ある?」
「知らん。それは自分で探して」
「えー投げやり」
「あはは適当すぎでしょ秋。でもまぁ、確かにそれはアリかも。悩むくらいならそれを武器に、的な?」
不幸を武器に、ねぇ。思いつきもしなかった将来の選択肢に、私は動かしていた箸を止めた。
不幸を使ってできる事。うーん、そう簡単には出てこない。けどさっきの橘さん達を見てたら、不幸も悪くないと思えたのは確かだ。
そういえば、橘さんと景品交換した時も不幸だと思った事がいい事に繋がったりした。それきっかけでこうしてお昼を共にする人が増えたとは、やっぱりあの景品はご利益があったのかもしれない。
「もし依頼系だったら私行こっかなー。教えてね、就職先」
「美知行くなら私も行く」
「あー、まぁ就職できたらね」
「それする気ない奴が言う言葉じゃーん!」
3人で笑いながら教室に戻った。またざわつきの元になったのは言うまでもない。
⁂⁂⁂
「願屋さん。私、思ってる事素直にいえなくて喧嘩しちゃったんです。言葉に関する運、よくしたくて」
「…懐かしいですね」
「え?」
「いえ、こちらの話です。畏まりました。私の不幸が、どうかあなたの幸運を導きますように。その願い、この願屋が導きましょう」
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