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「マスター、これどういうことかしら?」
振り向くとロングヘアにスーツ姿の若い女性――仁王立ちした佐々がいた。まさか。
「えっ君が犯人? やっぱり資金繰りが」
「はぁ? 何言ってんのよ。それよりケータイ!泥棒に入ってくださいと言わんばかりの書き込みしてんじゃないわよ。あと定休日は休むの! SNSも更新しないの! ここにいるだけで電気代もかかるし、お客さんが勘違いして入ってきたらどうするのよ」
「う……おっしゃる通りでございます」
彼女はすごむと怖い。僕はわりと身長が高いので見上げられる形になるがなんせこっちはもやし体形、向こうはジムで鍛えていらっしゃる。仕事もバリバリやってる。頭が上がらない。総じて迫力が尋常じゃない。怖い。
「すみませんでした」
素直に頭を下げる僕に佐々ははぁ、と溜息をつき、テーブル席に座るよう促す。腰かけながら僕は「佐々じゃなかったのかぁ」と安堵していた。
「何ヘラヘラしてんの。そんなんだから『もじゃもじゃ昼行灯』とか言われるのよ。
……で?」
「え?」
ずい、と彼女は顔を近づける。
「なんか理由があるんでしょ。定休日に店にいるのはともかく、マスターが自分からSNS更新するなんて普通じゃないもの」
「……」
僕の頭に、逮捕されパトカーに乗せられる人の後ろ姿が浮かぶ。
顔はわからないけど、喫茶店『メトロポリタン』の黒いエプロンをしている。その光景が、僕の口を重くさせる。
言いたく、ないなぁ。
なかったことに、したいんだけどな。
佐々が、にっこり笑った。
「吐け」
「はい」
僕は全てを白状した。
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