罰と媚薬

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罰と媚薬

 ユリウスの指が、閉じていたくちびるを力任せにこじ開ける。 「……嫌だ、こんなの。……お願い、やめ――」  懇願も届かず、くちびるを塞がれた。ユリウスの舌とともに、奇妙な味の液体が流れ込む。むせそうになるほど甘く、口内がぴりぴりと痺れた。 「……飲み込んで」  聞いたこともない冷淡な声。とにかくいまはおとなしく従うしかない。  無理やりごくりと飲み込んだ。通り過ぎた喉が灼けつくように熱い。 「口に含んだだけでもクラクラするのに、飲んだらいったいどうなるんだろうね」  目に暗い炎を灯したまま、ユリウスは口の端だけで笑った。  飲まされたものの正体はわかっている。いつかユリウスがふざけて異国の商人から買った、媚薬だ。  液体が落ちた腹の奥に、その炎が引火する。広がっていく鈍い熱。じわじわと体内を侵食する――過敏な部分を目指して。  熱を帯びた蛇が皮膚の下でのたうち回るような、未知の感覚に手足が震える。(こら)えきれず身をよじろうとしたが、拘束された左の手首と右の足首がその動きを拒んだ。  僕に残った一本の腕。それと反対側の足首を革紐で縛られ、寝台に(はりつけ)にされている。  身を震わせ息を荒げる僕に(またが)り、ユリウスはブラウスのボタンを外しはじめる。その指が肌に触れるたび、痛みにも似た刺激が背筋を駆け抜けた。 「……んあっ、……やぁっ」 「へえ、こんなにすぐ効くんだ。(まが)い物つかまされたかと思ったけど、こんど会ったらチップを多めにやろう」  冗談めいた口調のくせに、にこりとも笑わない。いつもとはまるで別人だ。
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