王国を繋ぐ者

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「……ユリウスと別れろと言っているわけではないのだ。あれはお前にとって、なくてはならない存在なのだろう。いや……お前だけじゃない。もはやこの王家にとっても大事な人間だ」  叔父は戦死する直前、修道女とのあいだに子種を残していた。それがユリウスだ。南方の血が入っているため、ユリウスはこの国の者たちとは少し容貌が違う。  情熱的な黒い髪、くっきりとした黒い瞳。この国に生まれる者はたいてい金髪碧眼だ。  ユリウスはそのまま山奥の修道院で育てられ、十八のとき王位継承者候補としてこの王家に連れ戻された。初めの頃はライバル視していたものの、すぐに心を許せる友達となり、間もなく想いを伝え合って恋人同士になった。  その後、王宮で開かれた御前試合で、王家の狂信者がユリウスの命を狙った。僕はその刃からユリウスを庇い、右腕を失った。  僕が祖父からル・グランの称号を受け継いだ後は、僕の補佐官と神官長に着任した。もともと祓魔師(エクソシスト)の才に長けていたユリウスは、軍神マルスから受け継いだ力によってさまざまな災厄から王家を護っている。 「あれのお前への忠誠は、金や名誉や義務感からではない、純粋な愛情ゆえだ。ああいう人間はどんな危機が襲おうと決して裏切らない。王にとっての宝だよ。だから何があろうとユリウスの愛情を裏切るな」 「……それではお爺さまは、僕にどうしろと言うのです? 側室を迎えるのは、ユリウスを裏切ることにはならないと?」  矛盾することを言われ、苛々した。ついに祖父もしはじめたのだろうか。 「この国の将来について、ふたりできちんと話し合えと言っているのだよ。お前たちももう子どもではないのだから、私が言っている意味を理解できるな?」  もう子どもではないのだから――?  ユリウスが来てからは、以前より上手くやれていると思っていた祖父だった。この五年、国の統治者として僕が必死に努力してきたことも、正しく評価してくれている。なのに突然、のだからと扱いをされ、ひどく腹が立った。  ユリウスと僕が愛し合うのは「子ども」のやることで、持ちたくもない妃を持つことが「大人」のやり方なのか。  祖父に退出の挨拶もしないまま部屋を出る。夜の会議がはじまるまでのあいだ、自分の部屋に戻った。  先に戻っていたユリウスは、窓際のソファでくつろいでいた。
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