「はるきや」開店

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「はるきや」開店

い・つ・も、はるのよーうにあったたかっく~おいしいしょくたくおうえん、おうえん、みんなのまーちの(タンタン・タタタン)は・る・き・や~ 「いらっしゃい!いらっしゃい!おきゃくさま~ごりようごりよーう!3時からのタイムセールのお時間でございまーす。今日の目玉はほうれん草が88円、88円ですよー」 1時間ごとの時間を知らせる店のテーマソングが流れると、用意してあった台車を引っ張り出して、ほうれん草の段ボールを店舗と道路のギリギリの位置まで積み上げると僕自身は店の外、道路にまで出て行って声を張り上げる。 公共の道路というのは「はるきや」の土地ではないので、商品をはみ出して販売するのは禁止だが、僕が出て騒ぐ分には構わない。 自転車と人が魚の群れのようにこちらにやって来て、それを駐輪場に置くように促しながら、はみ出たものはきちんとそれ専用のスペースに収めていく。 品出しは我が店のエースにしてプリンセスの六天(ろくて)君がやってくれているし、ほうれん草他のタイムセール商品をかごに入れたお客様は、店内に吸い込まれていき、レジの精鋭部隊が、早く、丁寧に、笑顔も爽やかにそれをお金に変えてくれる。 そのレジに至る間に張り巡らされた「本日の目玉商品」「本日2割引き」「本日お買い得」の法律に触れない表示できちんと書かれたPOPがお客様を誘惑して、ほうれん草だけと思っていたカゴを満杯にしているはずだ。 僕は駐輪場でその様子を思い浮かべながら、今日の売上金額と粗利を予想してざっと計算してみる。月の初めは雨が多かったから、天気が回復するこの1週間で取りこぼした分を補わなければいけない。 お客様に満足して頂ける価格で、従業員に給料を払い、賞与も確保して、家のおじいちゃん、おばあちゃん、父、母を養うためには利益を追求しなくてはいけない。スーパーの経営なんて大変なお仕事ねと言われるけれど、そうとは思ったことがない。 生まれた時から、俺はスーパーの子どもだったし、この仕事は素晴らしいと思って生きてきた。 毎日、毎日、お客様が来てくれるのだ。こっちから出向かなくていい。他に浮気されないように、毎日、毎日、来てもらえるように、品揃えを豊富に、価格設定をして、最後はレジで気持ち良く帰ってもらう。 正直言って、ここから車で10分ほどの大型ショッピングモール1階のスーパーマーケット部門など眼中にない。駅の反対側の商店街にある、中型スーパーは…少し気にはなるけれど、それだって抱える店舗数と従業員から考えた利益で考えればうちだって負けていない…いや、そうじゃない。 我が「はるきや」は地域密着型の個人経営、小型スーパーマーケットとして四代続く「お客様と共に」という信念がある。それを全うすることこそがこの春木信吾(はるきしんご)の生きる意味だ。 春木信吾 28歳。現役を早々に引退したがった父の跡を継いで…父は元気で刺身ばかり作っている…この「はるきや」の店長になって5年。思考回路は単純明快、性格も明るくて、人当たりが良くて、自分でいうのもなんだけれど、この商店街の人気者だ。身長は180センチ以上あって、いつも5軒先の「カットサロン きよし」で切ってもらう髪型は、前髪は少し長めで後ろはすっきり。やせ形で手足がひょろりと長いのが「しんごちゃん、モデルさんみたいね~」と50代から上の主婦にボディタッチをされながらいつも褒められる。20代から40代の年齢層にももちろん人気があるのだけれど、この世代は勘が鋭く研ぎ澄まされているようで、僕にはちょっと距離を置いて、温かく見守ってくれている人が多くて助かっている。 「店長、ほうれん草少し残しますよ。夜のお客さんに残らないと悪いですから、あと3ケースで終わりにします」 僕の六天君が店頭からこっちへ来て声を掛ける。 「うん、そうして、あ、六天君…危ない!」 六天君に倒れてきた自転車の下敷きになりながら、僕は彼の肩を抱いていた。 「店長、大丈夫ですか?」 「大丈夫、大丈夫…六天君、怪我はない?自転車も倒れなくて良かった、傷がついたら大変だったよ。六天君にもね」 自転車で乗り付けた30代くらいの奥様が、大丈夫?と駆け寄ろうとして、お邪魔よねと、僕らも自転車もそのままに置いて、買い物に行ってくれる。 僕は、地域密着型スーパー「はるきや」の店長で。六天君が大好き。そして、探偵という顔を持つ。
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