Cry Baby Cry

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 果林ちゃんが、しよう、と僕を誘ったのは曲作りだった。もちろん。  小箱は僕の持ってるリズムマシン。ビンテージっていうよりガラクタ寄りの。  果林ちゃんはリズムマシンをスピーカーに繋いでいじり始めた。  おもちゃっぽいサンプリングキーボードも持ってきた。ベッド脇に座り込んで、小声で歌い始める。  ナナナとかパパパとか、果林ちゃんお得意の。  果林ちゃんが歌うと妙に攻撃的に聞こえて刺さるやつ。 「ラクダ・バラクーダっていう曲にしようかな」    なにそれ。 「しーちゃんが歌ってね。わたしコーラスする」  ララ ラ ラク ダ  バラ ラ ラクーダ ダダ   ラララ ラ ク ダ バラクーダ    あ。かわい。  へなちょこなとこが、いい。  ウィスパーボイスなのにラブリーじゃないところが、すごくいい。   ラクダ たべたい バラクーダ  ラクダ たべたい  すきなの ラクダ   ぎざぎざの歯で たべたい いますぐ  そのながいまつげも ぜんぶ すきなのにさ  すいそうの中から ガラスごしの こい  ラクダ こい ラクダ 恋  さわることさえ できないの  ぼくの見た目でこわがらないで  バラクーダ ガラスごしに くちづけ  バラクーダ   ほら、メジャーデビューして武道館狙っちゃうとか、果林ちゃんの曲はそういう作風じゃない。 「バラクーダって、なに?」  バトウカーダ、じゃなくて? 「魚だよ。しーちゃん知らない? すごいおっかないやつ。確かすごく昔、barracudasっていうグループがあった気がする」  僕は身体を伸ばしてギターを手に取った。  僕がベースを弾くのは果林ちゃんのためだ。ベース楽しいけど。  もともとはギターを弾いてた。  果林ちゃんの選んだ、チープなリズムトラックに合わせてカッティングを入れる。 「あのね。ギターはじょわーんって。シュワシュワさせたい」  果林ちゃんが抽象的に要望する。  ギター弾きは、自分好みの音にするためにエフェクターという機材を使う。  こだわりが強くて、幾つもエフェクターを足元に並べるギタリストを見て、タップダンス系? と、ちょっぴり毒を吐く果林ちゃんも好きだ。  足でエフェクターを踏んで音を切り替えるから。 「ワウは?」 「しーちゃん。それも面白いかも」  果林ちゃんがおかしくてたまらないって顔で笑う。 「わたしあの名前好き。ワウペダルの」 「Cry Baby?」  ワウペダルって、踏むと、その名の通り音がわうわうってしゃべるみたいになる。 「そう! クライ・ベイビー!」
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