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果林ちゃんが足を痛めてサークル棟にやって来たことがあった。
一年生の夏休みの終わり頃。
「サンダルですっごい靴擦れしちゃった」
果林ちゃんはスニーカーとソックスを脱いで足を見せた。
ちょっと外反母趾気味のほっそりした足は絆創膏だらけになっていた。水玉模様のポップなペディキュア。
「山道でも歩いてきたの?」
果林ちゃんの顔も少し赤かった。
「日焼けするとすぐ赤くなるの」
ぶつくさ言いながらギターのチューニングを始める。
ミントブルーのぞうさんギターで遊ぶのがこの頃の果林ちゃんのお気に入りだった。
「果林ちゃんアウトドア派?」
まさか、と彼女は肩をすくめた。
「しーちゃん。国道沿いにある古着屋さん、知ってる?」
スプリングの飛び出しそうなサークル部屋のソファの上で果林ちゃんは僕にもたれかかった。
僕たちの大学は陸の孤島のような場所にあった。
交通の便がやたら悪くて、狭い範囲に学生が密集して住んでいる。
どこかへ行きたいと思ったら自転車でどこまでもがんばるか、車を持っている友人に頼るしかない。
「古着屋さんね、アメリカっぽいアイテムが多かったけど、結構可愛かった。買わなかったけどビンテージの食器とかも安かったよ」
果林ちゃんの言ったお店は自転車ではちょっと、という距離にあった。
「しーちゃんああいうの好きだよ。今度行こっか」
果林ちゃんが睫毛を伏せた。
ギターの内蔵アンプが、うみょっというような変な音を立てて、ふたりでくすくす笑う。
サークルの先輩たちが何故かメタルとかに夢中になっている中で、僕たちは気が合った。仲良しだった。
今も。
「自転車で?」
僕が尋ねると果林ちゃんが唇を歪めた。
「あのね。車から降ろされちゃったの。降りて来ちゃったって言うか」
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