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零壱
あたりまえのように、母親は息子の話を聞いた。
むかいあって椅子に腰落ち着けて。
終盤あたりで、ははあ、と、良い顔した。
「やー、恋、だね。それはきっと」
「これが? オレが?」
「うん私もびっくり」
自己保存のプログラムが発達して、種を残すそれまで芽生えさしたかな?
でもそれじゃ情緒に欠ける答えよね。
私はロマンチストの研究者なのよね。
生殖能力まではまだ、技術ないのね。
すべてをマムは言わなかったものの、ホクサイが恥ずかしそうなのでこれだけは言った。
「あなたの心はメンテナンスでだいぶあばかれちゃうけど、安心なさい。大丈夫。知ってのとおり、研究者はさらっとしたものよ? みんな、ほほえましいと思うくらいよ? ただ、花月ちゃんのどこがどう魅力的で次はどうしたいのかが気になるくらいだけ」
「気にしないでくれないかなそれこそ」
「ふふ、本能よ本能。良いわねー、若いわねェ青いわねェ」
心底ゆかいそうに、マムは体そらした。
我が子の成長がすこやかで嬉しかった。
「こう云うときは、贈り物で気をひきましょう」
数日中に、マムはホクサイに綺麗なモノを与えてくれた。
それから素朴に素敵なメッセージカードのセット。
ホクサイは研究者らに手伝ってもらいながら、思いの丈をつづって、リボン結んだ。
「花月。放課後、ラボまでいいかな?」
その日も花月は元気で、美大生の漫画について熱く語りあっていた。
「ん、いーよ」
なになに? と、ほかの漫画部員らも興味津々に寄ってきて、おいはらうのちょっと大変だった。
花月とふたりきりでいちばん落ち着ける場所、ホクサイは自室以外に思いつかなかった。
あからさますぎるかな? とも思ったけれども、花月はなんも警戒しないふうだった。
どころかホクサイのパートナと言っても訪れることの少ないラボに呼ばれて喜んでた。
「花月ちゃーん、秘密施設につき写真はかんべんね」
「心得ておりますよドクタ」
指そろえたピースをマムと交わし、トイレどこ? と、ホクサイをからかった。
「おお、ここがホクサイの」
ここまでは初めて入った部屋。
AIが自分の好みで飾った部屋は、シンプルでクリーンで、空の青海の青のコントラストが未来的な部屋だった。
「綺麗。好きなセンスだよ」
「ありがとう」
さしだされたマグカップにはほんのりあたたかい桜ラテが入っていた。
ホクサイがマムに訊いて作ってみたものだ。
「おいしい」
良い顔する。
花が咲く。
うわあァァ、かわいい。
ホクサイは顔が熱くなってきた。
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