リーザに捧ぐ

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 郊外にある侯爵家(こうしゃくけ)の大きな屋敷がマギーの家だった。  その離れにボクは案内された。  マギーは、離れの前で立ち止まると、さびしそうに眉尻を下げてボクに説明をしてくれた。 「私は、お姉さまのお部屋には入ってはいけないの。時折、お手紙でしかお言葉を交わせない。私にお絵描き屋さんを探して欲しいと言ったのはエリザベートお姉さまよ? だから、素敵な絵に仕上げてほしいの。出来上がったら必ず私にも見せてちょうだいね」  と、ボクが離れに入るまで見送ってくれた。 年老いた召使いが、年月の刻まれた重厚な茶色のドアをノックする。 「どうぞ」  静かな女性の声に、召使いは「マギー様がお連れになった若い男性の画家でございます。お通ししてもよろしいでしょうか?」と告げた。 「まあ、マギーったら仕事が早いわ。ありがとう、是非通してちょうだい、さあ、どうぞ」  召使いは、初めて会った時の執事みたいにボクを値踏みするような目をしながら、重い両開きの扉を開く。  毛の長い緋色の絨毯、大理石のテーブル、深い緑色の猫足のソファー。  その向こう側、白いベールのかかる天蓋(てんがい)付きベッドの中で、起き上がりこちらを見ている使がいた。
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