リーザに捧ぐ

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「もう半年も外に出ていないの。冬によくない風邪をひいてしまったせいなのか、すぐに体調を崩すようになって、ここ三ヶ月はベッドの上の方が多いのよ。だから、せめて絵の中の私だけは、色んな場所で笑っていたくて」  コンコンとまた小さく咳き込みながら、笑顔を作るリーザの願いがわかった気がした。 「それじゃあ、まず構図を決めようか。どんな感じがいいか、教えてくれる? リーザ」  ためらいがちに、彼女の名前を初めて口にした瞬間、心の中で何かが動き出した音がした。 「ありがとう、ジョゼフ。色々とワガママを言ってしまうと思うけれど、よろしくね」 「こちらこそ、よろしく。お気に召す作品を創れるように、努力するよ」  手を取り、笑い合う。  すごく小さくて冷たい手が壊れてしまいそうで心配になったけれど、彼女は嬉しそうだった。  ボクはリーザと相談しながら、海辺をかける彼女の肖像画を描き始めていった。
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