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昨日のことは夢であったのではないかと放課後まで考えてぼんやりしていた。そのせいか、担任の先生に暇人に見られたらしい。
「これ、あいつの家まで届けてくれないか、できれば直接渡してほしい」
宿題、提出書類の束を詰めた封筒を渡された。あいつというのはこの前から不登校になった女子高生のことだ。
暇なのは本当であるからこの頼まれごとをすることにした。
ただ場所がわからない先生から住所を聞いて、むかった先にあったのでは豪邸だった。整えられた松の木が夕陽に照らされて広い庭に影を落としている。
彼女はここに住んでいるのか、不思議に思いながらもインターホンを押す。インターホンのディスプレイに顔が写る。その顔は昨日見た女の顔だった。
「学校のものですか?そこに置いておいてください。それでは」
「おい!お前昨日」
「誰ですか知りません」
そう言ってインターホンが切れた。また押しても警戒してでてこないだろう。自分の態度が悪かったが人の話を聞かないのもどうかと思う。すぐにインターホンをまた押したいが出てはくれないだろう。
「もしもし、娘の学校の人ですか」
インターホンに出たのは、おばさんだった。娘と言っているなら彼女は母親なのだろう。
「はい先生に頼まれて書類を」
直接渡そうと、そう言い切る前に彼女は口を開いた。
「ドアの前に置いておいてください」
そう言って、インターホンが切られた。俺は言われた通り、ドアの前に置いて玄関から離れる。
3分くらい待ったか、さっきの母親の手が色白い腕が引き戸の隙間から出てきて、書類を入れた封筒を家に入れた。
直接は会っていないが、インターホン越しとはいえ、見たのだ。先生には直接渡したことにしておこう。でも俺は気になるのだ。あの女はあの人魚だという確信があった。もう一度見たかった。あの白い尾鰭を。
どうしようかと思ったとき、ぽちゃんと水が跳ねる音がこの家の裏で聞こえた。
走った。昨日の女がいると思ったからだ。音をたどって行くと水場があった。25メートルプールが比じゃないくらい。蓮の花や葉っぱが浮かんでるでも、よく見れば造花の偽物だ。
その透明な水の底には白い尾鰭を持ったあの女が横たわっている。
「あ」
「静かにしてよ。うるなさいな」
昨日の夜とは違い夕日が照らす尾びれは痛々しかった。よく見れば、白いように見えていたのは尾の部分、肌に血が通っていなかったからだ。
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