食べたくなかったミルクチョコ

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食べたくなかったミルクチョコ

春香の髪の毛は長くて真っすぐで艶々で、私の指の間をするりと落ちていく。 「今日はどんな髪型にするの?」 朝八時。ホームルーム前の賑やかな教室。 スマホで猫動画を眺めながら、友達の坂下春香が無邪気に聞いてきた。 「昨日、モデルのアズサがインスタに上げてたやつにする」 「えー私それ見てない。どれどれ…」 高校一年の秋。 登校後に春香のヘアアレンジをするのが、私・村木真央の日課となっていた。 今日の髪型は進化系ポニーテール。 全体をざっくり結った後に、毛束を所々シリコンゴムで括って、ポコポコした丸みを付けた。 「わぁ可愛い!私、この髪型好きだな」 机の上に置いた大きめの卓上ミラーを見ながら、春香が嬉しそうに言った。 そんな春香のポニーテールを見て、周りの女子たちが集まってくる。 「春香ちゃん、今日の髪も可愛いね」 「いいなぁ。村木さん、私にもやってよ」 羨ましがるクラスメイトに、春香は笑って首を横に振る。 「ダメダメ。真央は私専属のヘアスタイリストだから」 当然と言わんばかりの態度に、私は思わず苦笑を漏らす。 春香は甘えんぼ妹キャラで、こういう子どもっぽいところがあるのだ。
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