アリサ IN LOVE

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3 夜が明けた。 目覚めるとそこはトイレの中だった。 というわけはなく、真人はちゃんとベッドの中で眠っていた。 しかし結局、昨日は2時間以上もトイレの中に閉じ込められていたのだ。 おかげで、由加里に説教するはずがお流れになってしまった。 「ふぁあ、あ、あ」 真人は大欠伸をした。 爽やかな朝の光りがカーテン越しに部屋の中へさしこんでいる。 起き上がって窓を開けると、すがすがしい風が吹き込んできた。 小鳥のさえずりが聞こえ、街の風景が輝いて見える。 真人は両手をいっぱいに伸ばして、再び大欠伸をした。 なんだかこんな爽やかな朝も久しぶりのような気がする。 昨日のことが嘘のように思えて来る。 昨日のことーー友部から恋煩いをしていると言う告白を受け、それをアリサさんに伝えて欲しいと頼まれた。それも上手くまとめてくれるだろうと奴は期待している。そして、帰りの電車の中から由加里が不良めいた格好をした男と楽しそうに話しながら一緒にいるところを目撃してした。 その男と由加里がどういう関係かは本人に問い詰めてみなけらば分からないが……。 「行ってきま〜す」 玄関から声が聞こえた。由加里だ。 「由加里! ちょっと待て」階段をかけ降りながら、真人は叫んだ。その瞬間、足を踏み外してドドドッと下まで落ちて行った。 「何やってるの? お兄ちゃん」 大丈夫とも訊かず、由加里はキョトンとした顔で答えた。 「昨日、駅で一緒にいた奴は誰だ?」 床に倒れたまま、真人は訊いた。 由加里は一瞬、唖然として考えていたが、 「やだあ、お兄ちゃん、見てたの」と笑い声をあげた。 「ああ、たっぷりとナ」真人は皮肉たっぷりに言った。 「そう。それで?」 由加里はケロッとして答えた。少しは狼狽するかと思ったのだが、真人は肩透かしをくった。 「それでって……、あの変な男は何だと訊いているんだ」 さすがに由加里もほんの少しの間絶句した。 「変な人じゃないわよ!」由加里は大きな声で抗議した。 「あんな格好をした男が変じゃないとは言わせないゾ」 「もう、私急いでるのよ。何が言いたいの?」 「どういう関係なんだ?」真人は胡座をかいて座った。 「友達よ」由加里はそう言うとドアを開け出て行こうとした。 「ま、待てよ。友達ってどういう意味でだ」 「友達は友達よ。それだけじゃない。じゃあね」 「おっ、おい、話しはまだ……」 真人は手を差し出したが、その目の前で、ドアがバタンと閉められた。 「あいつぅ……」 真人はドアを睨みつけた。 「何が友達だ。バカヤロー、きっとあの男の正体をバラしてやる」 真人はぶつぶつ一人言を言いながら、階段を上がって行った。もちろん、もう一度寝るためである。 その日、真人は昼頃、大学に向かった。 午後からの授業を選択していたのだ。 大学前という名前の駅で降りて、真っ直ぐの道を約二百メートル行ったところに大学がある。 だが、この二百メートルというのがくせもので、だらだらとした坂道なのである。歩いて行くとなかなか疲れるのだ。 低血圧の真人が朝この坂を登ると、必ず途中で気分が悪くなる。 それが理由で真人は大半が午後の授業を選択している。それ以外に、朝寝坊だという大きな理由もあるのだが……。 中には車に乗って通学している学生もいるが、真人はそんな身分ではない。 大学側の言い分としては、登校時には適度の運動になり下校の際は楽、ということだが、歩いて通学している者にとっては大変な労力であることは確かだ。 運動部員達にとっては、格好のトレーニング場所になっているが、無所属の真人にとってはただの苦痛にすぎない。 坂道を半分登ったところで後ろからクラクションをならして車が走って来た。 振り向くと真っ赤なスポーツかーが、ものさごい勢いで近付いて来た。 真人は慌てて道端に寄った。 かなりのスピードで、そのスポーツカーは真人の横を通り過ぎた。 運転しているのはサングラスをかけた男で、助手席には女を乗せていた。 その女性の顔をチラッと見た瞬間、真人は思わず「あっ」と声を上げていた。 それはまぎれもなく、アリサだったのだ。 車は瞬く間に、正門の中へ走り込んで行った。 真人は慌てて追いかけようと、走り出した。 だが、十メートルも行かないうちに、息切れしてしまった。 真人がようやく正門にたどり着いた時、スポーツカーもアリサの姿も見当たらなかった。
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