アリサ IN LOVE

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4 しかし、チャンスは巡り来る。 授業が済むと真人は図書館へと出向いて行った。 本がたくさんあるから、その中に一冊くらいマンガ本もあるのではないだろうか、と考えたがからだ。 図書館には大勢人がいた。 閲覧を見て真人はゲソッとした。わけのわからない専門書ばかりだ。 みんな難しそうな顔をして、熱心に分厚い本を覗きこんでいる。 本当に皆分かっているのだろうか? 本を盾にして居眠りしている奴もいるんではないだろうかと、真人はあたりを見回した。 そのとき、ガヤガヤと声がして数人の男女が入って来た。 真人は目を見張った。入って来たのは、アリサ達のグループだった。 いわゆる『護衛隊』と呼ばれている取り巻き連中が常にアリサの回りをガードしているのだ。 アリサは後ろに護衛隊を引き連れて、女友達と共にそれぞれ適当な本を取り、手近な椅子に腰掛けた。 真人は本棚から適当に一冊抜き取ると、そっとアリサ達の斜め前の席についた。 「ねえ、アリー、何読んでるの?」アリサの右隣りの女の子が言った。どうやら仲間内ではアリーと呼ばれているらしい。 「うん? これ童話よ」アリサがそう答えると、 「えっ、ここ童話なんて置いてんの?」ともう一人の方の女の子が大きな声を出した。 「あたりまえよ。それよりナオミ、あまり大きな声出さないでよ」 アリサにそう言われて、その女の子ーーナオミは、 「あら、ごめんなさい」と舌をペロリと出した。 「サヤカは何を読んでるの?」とアリサは右隣りの女の子に訊いた。 「私、恥ずかしいわ」とその女の子ーーサヤカは頬を染めた。 「何よ。サヤカ。見せなさいよ」ナオミが身を乗り出して、サヤカの見ていた本を取り上げた。 「あ、やめてよ。ナオミ」 「フーム、ナニナニ、催眠術入門? 何よこれ」 「ちょっと面白そうだったから、見てただけよ。何でもないわ」 「あら、それにしてはえらく熱心に見てたじゃない」 「そんなことないわよ」 ナオミのからかいにサヤカは耳まで真っ赤になって言い返した。 「ホラッ、むきになった」 「違うわよ」 「やめてよ! ふたりとも」 アリサに一喝されて二人はシュンとなった。 その間、護衛隊連中(男の4人組だった)は、忠実な番犬のように大人しく腰掛け、それぞれ経済書やら六法全書などを取り出し、無表情でページをめくっている。 しばらくすると、ナオミは頬杖をついて居眠りを始めた。 アリサとサヤカは、あきれて顔を見合わせた。 「まったく、ナオミったらしょうがないわね」 「もう行きましょうか」 「そうね、そろそろ次の講義が始まる時間だしね」 「ホラ、ナオミ、起きなさい。行くわよ」 サヤカが突っつくと、ナオミは寝ぼけまなこで、 「ん? ここはどこ? 私は誰?」と訊いた。 「ここは図書館。あなたはナオミ」 アリサは親切に教えてあげると、本を持って立ち上がった。 それを待っていたかのように、護衛隊の4人組はサッと立ち上がり、素早く護衛の体制に入った。 真人は感心した。よく手なずけられているもんだ。 ナオミも欠伸をしながら立ち上がり、一行は静かに歩き出した。 それを見て真人も立ち上がり、後を追おうとした。 「クスクス……」という笑い声が聞こえたので、何だろうと思って回りを見渡すと、数人の女子学生達が真人の方を見ながらしのび笑いをしている。 少し気になったが、今はそれどころじゃないので本を元の場所へ返しに行った。 本棚に本を押し込みながら、何気なく本の背表紙を見ると、『はじめての妊娠とお産』と書かれてあった。 誰だ! 図書館にこんな本を置いたのは。 真人が図書館を飛び出すと、アリサ達は校舎に向かって歩いて行くところだった。 ほんの少し真人はどうしようかと考えたが、すぐに決心をして、走り出した。 「何だおまえは?」 連中の行く手に立ちはだかるように現れた真人に、護衛隊の一人が訊いた。 「ちょっと待ってくれ。呼吸を整える。今日はよく走る日でね」 真人は、はあはあと肩で息をしながら答えた。日頃の運動不足が響いたいるのだ。 「バカか、おまえは。どいてくれ、急いでるんだ」もう一人が言った。 「ああ、行ってくれ。君には用がない」 真人がそう言うと、男はムッとしたような顔になり、 「じゃあ、誰に用だと言うんだ」と訊いた。 「この人だ」 真人は真っ直ぐにアリサを指差した。 一瞬、誰もが茫然として言葉を失っていた。が、やがて、アリサが、 「私ぃ!」と目を丸くして、素っ頓狂な声をあげた。 「そう、でも随分と高い声なんだね」真人は率直な感想を述べた。 「ナ、ナ、ナ、何なんだ、おまえは?」 後ろについていた護衛隊の残り3人も乗り出して来た。 真人は構わず、アリサに対して話し始めた。 「僕は法学部2回生の吉永真人です。突然にすみません。実はあなたに折り入ってお話したいことがあるんです。良かったら今日、授業が終わったらちょっと付き合ってもらえませんか? もちろん2人きりで」 考えていた通りのことをスラスラ言えたので、真人は内心やったと思った。 「えっ?」 アリサはあまりに突然のことで、少々思考能力が鈍っているみたいだ。 ナオミもサヤカもポカンと馬鹿みたいに口を開けていた。 よし、もう一押しだと思って、真人は一歩アリサに近付いた。 と、突然、両側から護衛隊の2人に腕を捕まれ真人は軽々と抱え上げられた。 「わっ、何をするんだ」 真人は両足をバタつかせて抵抗したが、がっしりとした体格の護衛隊はビクともせず、 「こういう世話やかせる連中が多くていけねえや」 「まったくだぜ」 と話し合ってる。 「乱暴はやめて」 アリサが2人を制しようとしたが、 「心配しないでくださいアリー様、この無礼な男には俺たちがよく言い聞かせておきますから。さっ、早く教室の方へ」と男達は取り合おうとしない。 「でも……」とそれでもアリサが気にしていると、 「さ、行きましょう。行きましょう」と後ろの2人が背中を押して行った。 「待てよ。君達、ちゃんと話しを聞けよ」 真人はわめいたが、護衛隊の2人に抱え上げられたまま、連れ去られて行った。
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