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「りく、りーく。りくはいい子だね、ママのことおとなしく待っていてくれて」
愛菜がほっぺをつんと優しくつつくとベビーちゃんの顔がくしゃっと歪んでふにゃあと声を出した。
急いで抱き上げ授乳準備をする愛菜に
「愛菜さん、ベビーちゃんの名前決まったんですね」
と授乳を終えたオジョウサマが声を掛けた。
愛菜とオジョウサマは同期だからそれなりに顔見知りだったらしい。
「そうなんです。『莉空』に。水さんとこは?」
「莉空くんか、素敵ですね。うん、うちも決まりましたよ。すみれです。館野すみれ」
「わあ、すみれちゃんか。かわいいー。水さんとこは水さんそっくりな女の子だから館野先生メロメロじゃないですかぁ?」
「えええ?やっぱり私に似てるかな?義父もうちの両親も私に似てるっていうんだけど、自分じゃよくわからなくて。私から見たらすみれの鼻と口は父親似だと思うんだけど」
「ふふふ。すみれちゃんは目とかパーツのバランスがまんま水さんですよ」
愛菜の言うとおり、オジョウサマのベビーちゃんはオジョウサマそっくりの女の子だ。
絶対に可愛くなる。
いや館野先生にそっくりでも違うタイプの美形だっただろうけど。
それと共にかわいい愛菜とお人形のように美しい雅田さんの間に生まれたベビー、莉空くんも新生児のくせに既に将来期待させる顔立ちをしている。
ヤバいぞ、莉空が女の子に囲まれる未来が見える・・・・・・。女子を泣かせるんじゃないぞ。
愛菜に抱かれてふにゃふにゃと泣き出した莉空はおっぱいを口に含んで必死に飲み始めた。
「鳥越さんのところは決まりました?」
我が家のベビーにゲップをさせているとオジョウサマの興味がうちに向いた。
「・・・うちはまだなんです。主人が悩んでて」
「名前は子どもへの贈り物ですもん、悩みますよね」
「そうなの、悩むわよね」
うふふふふと笑って誤魔化した。
実は出産前に瑞紀から提案された名前が元カレと同じ名前だったものだから、さすがにそれはイヤだなと思って違うのがいいと言ったらどうして?と聞かれて言葉を濁したら何かを察した瑞紀がへそを曲げてしまったのだ。
この世の中に男の子の名前なんて星の数ほどあると思うんだけど、どうしてピンポイントでその名前・・・・・・。
出生届は14日以内だからそれまでに決まると思うけど・・・・・・。
「莉空くんだけじゃなくて鳥越さんのベビーちゃんもイケメンですよね。お父さんとお母さんのどっちにも似てて。大きな二重は旦那さんですけど、目尻とか鼻すじとか絶対にママの血ですよね。佐脇さんのそのクールな瞳に鳥越さんの大きな二重だなんてどうしよう、わくわくです。わたし鳥越ベビーちゃんの将来が楽しみで仕方ないんです。うちのすみれと仲良くしてくれるといいな」
そうなんだよ。
オジョウサマは邪気がなくって、たぶん本心でこういうことを言っている。
素直で真っ直ぐないい子。
だから館野先生も囲い込んで守ろうとするわけだ。
オジョウサマを見ているとどれだけ自分の性格が歪んでいるのかと気づかされ胸が痛くなる。私がオジョウサマのことが苦手なのは自分のコンプレックスを刺激されるからであって、彼女は何一つ悪くない。
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