肉食ナース、佐脇響の場合 ④

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「響、響?どこにいる?」 「ここよー。2階のベランダ」 平日の午後、こうしてたまに瑞紀は時間を作って自宅に戻ってくる。 子どもが生まれてからというもの二人だけの時間を作ることが難しくなり、日中子ども達が学校に行っている間に短時間でも自宅に戻ってくるようになったのだ。 それは子どもが成長してからもこうして続いている。 ほんの少しの時間だけど、子どもの前では話しにくいことも出来ないこともこの時間にしている。 私たちの大事な時間だ。 結婚して子どもを授かり、ママ友にも恵まれた。 でも、私の一番の宝物はやっぱり瑞紀だ。 「瑞紀っ」 ベランダに顔を出した瑞紀に飛びついたら「うおっ」っと言いながらもちゃんと受け止めてくれた。 あれから20年。 相変わらず私の瑞紀は格好いい。 うちの娘は父親より莉空のパパやすみれちゃんのパパの方がイケメンだというけれど、私は断然、瑞紀派だ。 「ベランダなんかで何してたんだ?」 「ちょっとぼーっとしてたの。妊娠がわかってマンションからここに引っ越しして、長男が大学生になって一番下も中学生になって。結婚して20年なんてあっという間だったなって思ってた」 「響はよく頑張ってくれたと思うよ。二人目を産むまでナースを続けながら子どものお母さんと飲食店オーナーの奥さんと俺の妻ってひとりで4人分働いてさ。おまけに何だかんだと館野先生のところの子どもと雅田のとこの子どもの面倒までみて。」 「私ばっかりじゃないよ。瑞紀だってみんなのいいお父さんじゃない。瑞紀がいなかったらあの8人の反抗期どうなっていたことか。まだ約2名終わってないけど」 うちと愛菜のとこの中坊二人組を思い浮かべてため息をつく。 最近ましになってきたけど、口をきかなかったり、二人で夜遅くまで出歩いたり。それでも毎朝私の作ったお弁当は持って行くのだからかわいいんだけど。『お袋のメシなんて食えるかー』なんてことは絶対に言わない。そんなこと言った日には瑞紀がぶち切れるし。 「なあ、今度の出張、二人で行かないか」 「出張って、宮古島だっけ?田沢さんのお店の開業パーティー」 「そう。俺ひとりなら1泊で帰ってくるけどどうせなら一緒に行こうぜ。パーティーは金曜の夜だから金曜から日曜まで2泊3日。中坊2匹は大学生たちに任せればいいだろ。あいつらならちゃんとやってくれるさ」 瑞紀とふたりで2泊3日の宮古島! 二人きりの旅行なんて18年ぶり?! もちろん、行きたい、行きたい。でも大丈夫かな。 「じゃあ水ちゃんと愛菜のとこに連絡しておこうかな。何かあったら助けてねって」 「そうだな。たぶん俺たちの留守中はうちに子供ら8人で集合しそうだし。見回りでも頼んでおくか」 「大学生3人、高校生3人、中学生2人でわいわいやるのかしら。それはそれで楽しそうね」 「な、だから行こうぜ」 「うん」 決定だなと瑞紀がとても嬉しそうに笑った。 年を重ねた瑞紀の目元には笑うとしわが入る。 私はあの頃なかったそのしわが好きだ。 共に過ごしてきた年月を感じることが出来て、とても幸せな気持ちになる。
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