77ページ後の、幽子の訓練の様子

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77ページ後の、幽子の訓練の様子

袴に着替えた幽子は、目に飛び込んできた日差しに目を細める。空気まで燃えるような日が続いているので、野外でじっとするのは午前中しかできない。今日は猛暑日ではないのだが、それでも暑いものは暑いのだ。麦茶を飲み干した彼女は縁側に座ると、右足を左の腿の上にのせ、左の足を右の腿の上にのせる、いわゆる結跏趺坐(けっかふざ)を組んで座る。手は軽く膝の上に組み、ゆっくりと腹式呼吸を行った。こつは肺腑一杯に息を吸うことではなく、吐く息を吸う息よりも長くすることだ。武瑠が言うには、人間は息を吸うと興奮し、息を吐くと落ち着くようにできているんだとか。 「昨日は15分だったからな。今日も同じ時間でいくぞ」 武瑠の声が遠く感じられたが、幽子はそれに頷いて半眼になった。幽子の肩に武瑠の手が添えられる。彼はわざと封印を緩くして、幽子の霊力が溢れるように調節しているのだ。 (まさか霊力制御の訓練が座禅だとは思わなかったわ) 腹式呼吸をしたというのに、早速雑念に捕らわれた幽子は、訓練初日のことを思い出していた。当初は結跏趺坐そのものが上手く組めず、武瑠に下手くそだの何だの言われて悔しい思いをしていたが、その日のうちから短時間ながらも訓練そのものはできていた。 (呼吸を整えて……霊力を体中に巡らせるイメージで……吸う息で取り込み、吐く息で巡らせる……) 幽子は霊力が全身に巡るイメージをしながら呼吸を続ける。この時に呼吸を乱すといけないと武瑠から忠告されていた。呼吸が乱れると、霊力も乱れるからだ。霊力は吸う息で膨らみ、吐く息ですぼまるのである。 実際に呼吸を繰り返すと、段々と心が凪いだ海のように安らいでいくし、体内の霊力も穏やかになっていく。だがそれを邪魔する物があった。 (何で静まった瞬間に足が痺れるのよ!)
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