17人が本棚に入れています
本棚に追加
否定しない
とある日の沢木家、正幸は仕事でいない。
「美玲さん、美玲さん」
その口調に柔らかさは無い、召使でも呼びつける言い方。
「なんでしょうか、お義母さん」
「だからお義母さんって呼ばないでって言ってるでしょう!!」
娘と認めていない者に、義母呼ばわりされた事の怒声が美玲に炸裂する。
美玲は政子から怒りや負の感情をぶつけられたら、いつも黙って逃げる。
学校に行っておらず語彙力が極端に乏しい美玲は、口喧嘩をした事が無い。
トラブルになりそうになったら暴力か逃亡、そんな極端な手段しかしらない。
殺すと決めてはいるが殴る訳にはいかない、美玲はいつも政子から逃げていた。
「待ちなさい」
美玲を呼び止める政子、追い打ちをかけるつもりだ。
「貴方ってほんと、何も知らないし、何も出来ないわよね。恥ずかしくないの?」
「あ、う・・・・」
「何?日本語も言えないの?何てこと!正幸はサルと結婚したのかしら、市役所に行って間違ってサルと結婚したので婚姻無効にして下さいと、言わなくてはいけないわ」
美玲は介護教室で学んだことを必死に思い出していた。
そうだ、たしか・・・否定しない。相手の言う事を受け止めて認める・・・だったはず。
「あ、あの、その通りです。何も出来なくてごめんなさい、何も知らなくてごめんなさい」
てっきりキツい口調で反論が来ると構えていた政子は、完全に調子が狂ってしまった。
「あ・・・いや・・・そ、その・・・そうね」
政子は自分の部屋に戻っていった。
その様子を見た美玲は、やった・・・初めて暴力以外で相手を退けた。介護学すげーーー!言葉だけで撃退できるなんて、きっと凄い殺し方が分かる日が来る!達成感で満ち溢れていた。
最初のコメントを投稿しよう!