好きって気持ちに気付いたら

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好きって気持ちに気付いたら

 そんな駿も二年生になり、俺は六年生になった。もう駿は道に迷ったりしないし、一人でだって学校に行けたけど、俺たちは相変わらず手を繋いで登校した。帰りには、駿は必ず俺を待っていて。やっぱり俺たちは手を繋いで下校した。  卒業式の次の朝、駿が寂しそうな顔でしょんぼり登校していったのを、俺は知っている。  それから俺が中学生になって、高校生になって、今度は駿も中学生になって。「お兄ちゃん」は卒業して「みっくん」と呼ばれるようになって。  その頃には当然手も繋がなくなっていたけど、俺と駿はいつも互いの家を行き来していた。一緒に勉強したり、っていうか俺が駿の勉強を見てやったり、ご飯を食べたり、たまには泊まることだって。  でも、そのときは当たり前すぎて気付いていなかったんだ。本当の気持ちに。あまりにも近くにいすぎて。俺も、たぶん駿も。  大学進学のために、俺は一人暮らしを始めた。はっきり言って一人は寂しかった。だって、今まで俺のそばにはいつも駿がいたから。あの底抜けに明るい駿にどれほど癒されてたか、俺は離れてやっと思い知った。恋人を作ったりもしたけど、しっくりこなくてすぐに別れてしまった。思い出すのはいつも、駿の笑顔と、あの甘えた笑い声。  帰省するたびに少しずつ大人びていく駿に焦りだって感じた。高校まで続けたサッカーでは随分活躍したみたいだし、何より明るくて優しい。きっと女の子にもモテたんだろうな。ガールフレンドの一人や二人、いたかもしれない、そう思うと胸が苦しくて。そういえば、好きなタイプとか好きな子の話は、駿とはしたことがなかったっけ。  久し振りの電話で、駿が俺と同じ大学に合格したと聞いたときには、それはそれは驚いた。大学卒業後は修士課程に進むことが決まっていた俺とルームシェアをしてほしいとも言われて、嬉しさのあまり思わず携帯を落っことしそうになったくらいだ。勿論、二つ返事でO.K.した。    二人の暮らしは楽しかった。休みの日は、ショッピングに行ったり、映画を見たり、遠くまで美味しいものを食べに行ったり。少し離れているうちにすっかり大人びた駿に、俺はよくドキッとさせられたものだった。  出掛けるとき、駿は必ず俺の手を握る。俺はね、もう嬉しいやら、照れ臭いやら。でも、俺も絶対に駿の手を放さなかった。繋いだその手には、子どもの頃のそれとは全く別物の熱い熱い感情がこもってるんだってことは、もうお察しいただけていると思う。時間はかかってしまったけれど、俺は駿の全てを受け入れて、駿も俺の全てを受け入れてくれたんだ。
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