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のんびり愛を紡いだら
ダジャレが大好きでお笑い芸人に憧れた愛くるしい少年は、今では堅実な会社のサラリーマンとなった。医療機器の営業販売で毎日くたくたになっているが、持ち前のポジティブさと癒し系スマイルでそれなりにうまくやってるらしい。
サッカー選手になりたかった俺はというと、中学校で数学の教員をしている。学生時代、駿の宿題やら勉強やらにずっと付き合ってきたお陰で、教える楽しさに目覚めたってとこか。ちなみに受け持ちの部活はサッカー部だ。高校では数学研究会に入ってサッカーを辞めてしまった俺だけど、仕事でまたサッカーに関われたのは、正直嬉しい。
俺は隣に座る駿を見つめた。駿は上機嫌に餅巾着をはむはむしながら、コント番組を見て笑っている。
すっかりイケメンになりやがって。いつの間にか身長だって追い越されてるし、地元にいた頃はずっと俺が世話してきたのに、今では俺が気遣われていることもあるくらいだ。ほんと、大人になったもんだ。
でも。
変わらないところもある。
相変わらずお笑いが好きで、くだらないバラエティなんかを見ては手を叩いて笑ってるとことか。あとは、もういい加減こっぱずかしいからやめろって言ってるのに、子どもの頃みたいに俺のこと「お兄ちゃん」って呼びたがるところ。
アルコールには弱いくせに、駿はときどき酒を買ってくる。それは時によってビールだったりチューハイだったりするわけで。酔った勢いで甘えるつもりなんだって、バレバレなのにさ。そんな駿が可愛くて気が付かない振りしてる俺にも、多分駿は気付いてる。
今だって。
缶ビールたった一缶で顔をピンクに染めて、目をとろんとさせた駿が俺を見つめている。
「お兄ちゃん、だぁい好き」
ほらきた。
俺は、もうぷにぷにの名残すらない、がっしりした駿の手を撫でてやる。
ああ、可愛い駿。可愛い可愛い俺の……。
「ふへへへっ」
いきなり駿がでろーんと俺に抱きついてきた。「俺も大好きだよ」そう囁いて、俺はそのデッカくなった背中にそっと腕を回した。
了
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