レンタル僕の時間

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「もちろんモニターなので無料です。お試しは三回まで。気に入ったら年間契約を結んで頂きます」  何故急にセールスマン。  そして月額じゃなくて初っ端から年間契約なんてかなりの悪徳。 「は、はあ。でも私は」 「わかってる。内容が気になるよね?こちらをご覧ください」  彼は軽やかにスマートフォンを操作し、私に見せつけた。  怖い宗教の勧誘を受けている時の気持ちってこうなのかな、と少しゾワッとした。 「1時間コース→お洒落なカフェでお茶。3時間コース→夜景の見えるレストランで食事。半日コース→ハイキングと日帰り温泉……」  読み上げる私に、尼崎くんはにっこりと微笑んだ。 「もちろん、全ての費用はこちらが負担します」  それって、尼崎くんの利益になるどころかかなりの損失、大赤字じゃないか。 「丸一日コース、……“僕の家でゆっくりする”?」  途端に尼崎くんの顔が真っ赤になった。 「……もちろん、アクティビティは充実しております。退屈はさせません」 「は、はい」  そこでようやくこのレンタル事業の意図がわかり、私はふっと笑った。 「もし気に入って年間契約を結んだとしたら、費用はどれくらいですか?」 「良い質問ですね」  彼はいつものむかつく笑みを浮かべ、上目遣いで答えた。 「費用は時間です。同じ分のあなたの時間を頂戴します」  ……素直にデートしようって言えや、尼崎くん。 「……わかりました」  私達は微笑み合って、照れ隠しにカップを口に運んだ。         【おしまい】  
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