レンタル僕の時間

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「君にとっておきの事業を紹介したいと思う」  尼崎くんは、いつもの面倒くさい話し方で得意げに口角を上げた。  また始まった。  そう呆れながら、カフェラテに砂糖を入れてかき混ぜる。  友達以上恋人未満の彼、尼崎くん。  コンビニのバイトで知り合ったけれど、彼はその持ち前の面倒くささですぐにクビになったから、今となってはコンビニの話は禁句だった。  アメリカンドッグの話すら緊張感が走るほど。 「事業って何?」  呆れながらもこうやって耳を傾けてしまうのは、惚れた弱みなんだろうか。  有名大学に通っている彼は、バイトは続かないけれど頭は良い。  いや、たまにそれも疑問に思う時があるけれども。  とにかく彼の話は私にとって魅力的で、くだらないと思いつつも最後まで聞いてしまうのだ。 「“レンタル僕の時間”さ」 「は?」  こうして私が露骨に引くのも日常茶飯事なので、彼も決して怯まない。 「その名の通り、僕の時間を貸すんだ。利用者の希望とする日時、提供時間、方法で」  彼は至極嬉しそうに目を輝かせた。 「最近、流行っているだろう?レンタルおじさんとか、レンタル彼女とか」 「ま、まあ」  だろう?と言われても。  百歩譲ってトレンドでも、尼崎くんの時間を借りたい人なんているんだろうか。 「そこで、手始めにモニターを、君にお願いしたい」  勢いよくカフェラテを噴き出した。    私かい。  正直言って即答で断りたい。  尼崎くんと一緒に過ごすのは良いけど、モニターなんて意味不明なことには参加したくない。    
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