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ああ、終わったんだなと思った。
幻滅とかはなくて、もちろんいまでも好きなのだけれど、なぜかあの頃のようには泣けなかった。
せめて、君に幸せになる権利なんてないと、そう思わせてほしい。
「不幸になってね」
君の耳は確かに、ぼくの声を拾っているけれど、君はもう、ぼくの顔を見てはくれない。
いつから、間違えてしまったんだろう。
異変に気付いたのはつい最近のようで、ずっと見ないふりをしていたのだと、ため息はむなしくフェードアウトする。
鈍感なふりでぼくを傷つけまいとする君の横顔はあまりに残酷で、気づけばぼくは君から目を逸らすことが多くなっていた。
あの子と楽しそうに話さんでよ。
ぼくだけを見ててよ。
そういう、どす黒い感情に飲み込まれてしまうことを恋というのだと、ぼくは知っている。
無条件に愛されたいな、と思う。
無条件に愛されていれば、きみのことをすきになることもなかったんだろうな、と思う。
都合のいいように扱われているということは重々承知の上で、ぼくはまた許してしまう。
君限定に許しているのに、君はそうは思ってはくれない。
帰り道は、一人分の空白感を吐き出しながら泣いた。
君はもう、ビルの中に溶けていく。
ただ、人間で在りたい。
普通に恋をして、普通に恋人がいて、普通に振られて、そういう人間で在りたい。
ぼくはきっとうまくいかない。
愛する人のこどもを産むことはできない。
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