昔好きだった同級生(ヒモ)と餃子の無人直売所で再会した話。※J庭52サンプル

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 誰でも出入りできるところで、一体何を言ってるんだと思った。 「だーかーらぁ、マイちゃんもニンニク多めのやつ食べようよ。そしたらおれはマイちゃんの口がニンニク臭いかどうかなんてわかんないもん。え、一緒にニンニク無しのやつ食べればいいって? やーだーよぉっ! 餃子にニンニク入ってないとか、ショートケーキにイチゴが入っていないのと一緒じゃん。小さい悟空に尻尾が生えてないのと一緒じゃん!」  『だーかーらぁ』と『やーだーよぉ』の子どもみたいな言い方に、ふと聞き覚えがあった。  俺は無意識に男をじっと見ていたらしい。俺の視線に気がついた金髪男がふと頭を横にひねり、俺を見た。目が合ってから、自分が相手をガン見していたことを知った。  俺を認めた男の目が、みるみるうちに見開かれていく。男は驚いた表情になると「あーっ!!!」と俺に向かって指さした。  ん? なに、俺の顔になんかついてる? とりあえず顎や頬を触ってみたが、剃り残しの髭がちょっと手に刺さるくらいで、何かついてるということはない。もしかして知り合いか?と思ったが、あいにく男の顔に見覚えはない。ホストの知り合いもいない。 『ちょっとォ、急に大声出さないでよ』  スマホのスピーカーから聞こえる声で我に返ったのか、男は手元のスマホに向かって「あ、ごめんごめん」と謝る。そして相手の女性にノーマルの餃子を買っていくことを約束して、電話を切った。  金髪男はジャージにスマホをしまうと、ぱあっと笑顔になった。 「ガブ! おまえ、ガブだよな!?」  ガブ――――俺の人生で、俺のことをそう呼ぶのは一人しかいない。ドキッとして心臓が止まりそうになる。 「え……もしかして――」 「あくるだよ! あ・く・る! 椎名明來! 『明日が来る』って書いて、『来る』って漢字がなんか神聖っぽいやつ!」  俺は動揺を隠そうとして「神聖っぽいはよくわからないけど……」と目を下にやる。 「いやぁ、久しぶりじゃん。元気してた? まさかガブとこんなところで会うなんてな~。あれ、ガブとおれって高校の卒業式以来だっけ? てか背縮んだ?」  質問が矢継ぎ早に飛んできて、何から答えればいいのかわからない。  ちなみに俺の下の名前は『大典』と書いて『ひろのり』と読む。それを高校一年生のとき、テストが終わったあとの答案用紙回収のため、たまたま前の席にいたあくるに紙を渡したら、 「これなんて読むの? だいてん?」  あくるは俺の答案用紙を覗いて訊いてきた。  そこから俺の名前はあくるの中で連想ゲームのように『だいてん』→『大天使』→『ガブリエル』と、進化していった。こんなどこにでもいるごく普通の男子高校生が、大天使と同じ名前なんてうすら寒い。しかも最初は面白おかしく俺のことをガブリエルと呼んでいた同級生たちも、しばらく経つと大それた俺のあだ名に飽きていた。  まわりが『田口』と呼んでくる中、あくるだけは俺のことをガブリエルと呼び続ける。そんな状況が、当時は違和感でしかなかった。俺が「もっとマシなあだ名はないのかよ」と半分冗談、半分本気で言うと、あくるはちょっと考えたのちにこう答えたのだった。 「ガブリエル以外思いつかねーよ。でもまあ、おまえが嫌っつーなら考えるか……うーん、……………………じゃあガブで!」  そこから卒業するまでの三年間、俺はあくるにだけ『ガブ』と呼び続けられた。  毎日あくると一緒にいた。高校三年生では進路別にクラスが分けられるため、進学組の俺と就職組のあくるは離れたけれど、昼休みや俺の部活がない日の放課後はいつも一緒に過ごした。  親友……だったのだろう。でも卒業後、俺とあくるが連絡を取り合うことは一度もなかった。  あくるからは卒業後も何度か『今ひま?』とか『遊ぼうよー』とか、『今会社の先輩たちと飲んでるんだけどガブも来ない?』とか、いくつものメッセージがスマホに届いた。
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