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プロローグ
寒い北風がだんだんと南よりの暖かい風に変わる頃、親友の夏菜の家に遊びに来ていた私は夏菜のお兄さんである一成さんに告白をした。
「私、一成さんが好きです」
一世一代の大勝負に出たけど、なんともあっけなく見事に玉砕。
「千咲、ありがとう。俺も好きだよ。でも今は付き合えない」
クールな一成さんは小さな微笑みと共に私の頭を撫で、そして何事もなかったかのように去っていった。
片山千咲、高校二年生、恋破れたり。
四月からは三年生で受験生。
ああ、これで受験にも身が入るってものだ。なんて自分を慰めてみたりして。
かたや塚本一成さんは二十二歳の社会人。四月からは一人暮らしをするために家を出ていくらしい。
そんな情報を夏菜から得て、私はほうっと胸を撫で下ろした。
だって失恋したのにその相手がいる家に遊びに行くのは気が引ける。いなくなってくれるのはむしろ好都合といえよう。
ほっとした気持ちと残念な気持ちが入り混じっている。
失恋したんだから会えなくてよかったじゃないか。
そう思うのに……。
まったく会えなくなって、心にぽっかり穴が空いた。
失恋の痛手は大きかったようだ。
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