秘書として

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翌日、さっそく見立ててもらったパンツとジャケットを羽織り、ようやくリクルートスーツから卒業した私は、ドキドキしながら出勤した。 リクルートスーツの昨日は「新人が入ってきた」という好奇な目で見られていたことがプレッシャーになっていたけど、これはこれで緊張する。 今日は昨日見立ててもらった白のVネックブラウスにダークグレーのジャケットを羽織っている。少しは知的に見えるだろうか。 「おはようございます」 「おはよう」 一成さんは私よりも早く出勤し、始業前だというのにもうパソコンに向かって仕事をしている。 私は空調をチェックし、副社長室を簡単に掃除。それが終わるとスケジュールの確認とメールのチェックをするためにパソコンを開いた。 「ずいぶん早いんだな」 「はい、緊張して。遅れたら嫌だなって思ってたら早く着いてしまいました」 「まだ始業までだいぶ時間がある。ちょっと付き合ってくれ」 「あ、はい」 私は慌てて手帳とペンを抱えるが、一成さんは「何も持ってこなくていい」と手で制し、スタスタと歩いていく。遅れないようにと小走りで着いていくと、チラリとこちらを見て速度を落としてくれた。 後ろを着いていくつもりだったのに、横並びになり心臓が跳ねる。 隣に立つ一成さんは背が高くて今日もスーツがよく似合っていて、大人の魅力がたっぷり。隣に立つのが私なんかで申し訳ない気持ちになってしまう。 だけどこんなに近くにいられるのも貴重な気がして、ひとときの時間をありがたく思った。
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