秘書として

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そう心に決めた瞬間、耳に入ってくる言葉――。 「ねえ、あれって副社長じゃない?」 「やだ、本当だぁ。かっこいい!」 「一緒にいるの誰だろう?」 「さあ?なんか釣り合わないね」 聞こえるか聞こえないかくらいの声の音量と共に、クスクスと笑い声。 居たたまれない気持ちになってカップに視線を落とす。 一成さんがかっこいいのはわかる。本当に、男らしさと相まって目を惹くような美しさがあるのだから。私も遠巻きで見ているなら「キャーかっこいい!」だなんて騒いでいるに違いない。 問題は私だ。 釣り合わないだなんて、私が一番よくわかっている。自分が平凡すぎる平凡だって自覚してるんだから、わざわざ聞こえるボリュームで言わないでよ。 「――さき、千咲」 「は、はいっ!」 呼ばれていることに気付き姿勢を正す。 「そろそろ行こうか」 「あ、そうですね。お会計は……?」 「もう済ませてある」 「えっ?!」 一成さんはすっと立ち上がるとスタスタと行ってしまう。慌てて着いていくと、先ほどこそこそとこちらを見ながら話をしていた女性たちが、 「やばっ!生副社長イケメンすぎる!」 「これは眼福だわ!」 と黄色い声を上げているのが耳に入った。 それには激しく同意だ。 本当に一成さんったらたった数年でどれだけかっこよくなったら気が済むの。近くで仕事する私の身がもたないよ。 「今日は午後から外出する。わからないことは時東に聞いてくれ。定時になったら帰っていい」 「はい」 「それから……」 一成さんは考え込むように言い淀み、急にこちらに視線を向けた。じっと見つめられ何事かと思わず身構える。 「……あまり首元の広い服は着るな」 「え?」 「悪い虫がつく」 「虫……?」 「なんでもない。行くぞ」 そんなに首元空いていただろうか。思わず視線を下に落とすと、ぺちゃんこの胸のせいで変な隙間ができていた。 これは……情けない。 胸が大きくて谷間でもできてるなら見映えがいいものを。 やっぱり私にスーツは似合わないんだなぁなどと一人落ち込みつつ、デスクへ戻った。
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