トラックは魔法がなければ走れない!

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飛べねぇ豚はただの豚という名言があるが、走れぬトラックもまた、ただの鉄の塊である。男は猛烈に困っていた。目的地まであと5000キロを残して、トラックは停まっていた。 「ついてねぇ…。」 運転席に座る男が呟いた。黒髪中肉中背、会社のロゴが入ったヨレヨレのTシャツ。白のスニーカー。男の名はケン・マエシマといった。周りからはマエケンと呼ばれている。年の頃は23。大陸横断運輸業者ラストワン所属、ドライバー歴は5年であり、これまで3度の大陸横断を成功している中堅に差し掛かりつつある大型トラックドライバーである。ここユーカティア大陸は東西に長く、古くより交易が盛んであり、古くはラクダや馬によるキャラバン輸送が活躍していた。それより2000年後の現在の陸送の主力は主にトラックと鉄道であった。1日1000キロを走破するトラック。ケンはそんな由緒正しい物流を支える名もないドライバーの一人であった。 「ついてねぇ、まさか魔女が辞めちまうなんて…。」 トラック。それは現代科学が生み出した鉄の馬車。しかし、それには大きな特徴があった。魔法が無くては走れないのである。 「魔術機関大型自動車」。これがトラックの正式名称である。この世界は魔法、言い換えれば魔力が世界の主電源となっている。つまり魔力がなければ、蛍光灯にあかりはつかないし、機械は動かぬ鉄の塊なのである。 魔女。それは古来より存在した不思議な力を有する者。魔女こそがこの世界の動力を支える存在なのである。 「今回は、行けると思ったんだけどな…。」 つまり、トラックは魔女もといその魔女が供給する魔力がなければ動かぬ鉄の塊なのである。 ケンは困っていた。 空席の助手席を見つめる。運転席の隣に座るはずの魔女が急に仕事を辞めたのである。 「まぁ、若手だからしょうがねぇといえばしょうがねぇが…。」 大陸横断のトラック輸送の仕事は過酷である。深夜の運転はあり、直線距離にして約40000キロの道のりを舞台に走るのである。そのため、ドライバーは短くて1ヶ月、長くて1年かけて大陸中を駆けめぐる。ハードな仕事であった。 ケンの不運はそんなハードワークに耐えかねえた相棒の魔女が配送中に仕事を辞めたことに起因する。要するにバックレたのだ。 魔女がいないトラックは、動かない。そのため、ケンもこのシリウスの街のダイナーの駐車場から動けずにいた。
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