遥かなる故郷は宇宙

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 独房のことは知っていた。敵の捕虜を収容する施設だと思っていた。まさか自分がそこに入ることになろうとは。この基地に来てから知る初めての独房入りの人間が、スカイ自身になろうとは思いもよらなかった。  スカイはかび臭い簡易ベッドに横たわり、天井を眺めた。  これでソシアの元へ行くことはできなくなった。残念だが、これも運命の流れのひとつ。仕方がない。  ルー・ソシアは優しい人だった。子供想いで、ステーション№10にいるときはよく可愛がってくれた。あの人が兵を率いているのなら、きっと部下たちのことを思い、部下たちからも慕われる指揮官になっていることだろう。  会いたい。  スカイは強く思った。ソシアが自分を可愛がってくれたのは7、8歳の頃までだろうか。でも、今会っても、必ずジミー・スカイの息子ジョンだとわかってくれるだろう。  ルー・ソシアの父、ダスバル・ソシアは、ソト・マーロイのもとで働いていた。マーロイは宇宙ステーション№10の最高責任者であり、宇宙同盟国の創立とその独立運動の中心人物だった。  ソト・マーロイには二人の子がいて、一人は男のトーマス・マーロイ、もう一人は女のスチファニー・マーロイだった。スカイの父がソト・マーロイの側近だったダスバル・ソシアの部下だった関係で、幼い頃からスカイはトーマスやスチファニーを知っていた。二人とも金髪に青い目の美貌の兄妹で、その頃から二人に憧れのような感情をスカイは持っていた。  やがてソト・マーロイが亡くなると、トーマスがその後を継ぐと目されていた。しかしトーマスはまだ若く、連邦軍がソト・マーロイの子供たちの暗殺計画を企てているとの情報があり、ダスバル・ソシアは二人の子供を連れてステーション№10から秘密裏に脱出した。  スカイの父、ジミー・スカイもダスバル・ソシアやソトの子供たちと共にステーション№10を出ていったが、行き先は知らされなかった。スカイは母と共にステーション№10に残り、やがて兵役につける年齢に達すると当然のように宇宙同盟軍に入隊した。  トーマス・マーロイも軍に入りFマシーンのパイロットになっているという噂を耳にしたが、父に訊いても何も教えてくれず、噂が本当なのかどうかスカイにはわからなかった。  妹のスチファニー・マーロイも地球を出て宇宙ステーション№17に移住したという噂を聞いたが、それも本当かどうかわからなかった。  ダスバル・ソシアとジミー・スカイは地球に残り、軍の上官として働いている。  スカイは今でも時々スチファニーのことを思い浮かべる。まだ幼い頃の記憶しかないが、大人になってとても美しくなっているという姿は想像することができた。 「スカイ、スカイ、起きろ」  呼ぶ声に、スカイは我に返った。浅い眠りの中にいたらしい。 「司令官が呼んでいる。来な」  鈍い音を立てて鉄格子の扉が開けられた。 「独房はどうだった?」  先ほどとは打って変わって穏やかな表情のマックウィーが尋ねる。 「ベッドがかび臭かったです。ほとんど眠っていたので、他に感想はありません」 「そうか。あまりお灸にならなかったな」 「は?」 「出撃の許可が下りた。ユウ・リと共にルー・ソシアの部隊に合流し、連邦軍の戦艦を撃滅せよ」  マックウィーが真顔になって命令を下した。 「はい」  スカイは敬礼をして命令を受ける。一瞬何のことかよく呑み込めずに狼狽えた。 「三時に新型Fマシーン105型と代替えパイロットが到着する。パイロットに連邦軍の軍備や戦闘地域の地形等必要事項を引き継いでおくこと。出撃は明朝四時。ジョン・スカイはF105型での出撃となる。操作マニュアルは頭に叩き込んであると思うが、実機を動かして作動状況を把握しておくこと」  マックウィーは淡々と命令を述べた。 「はい」  スカイはぴしっと返事をする。やっと司令官の真意がわかった。 「他の戦闘区域では依然激しい戦闘が続いているため、F105及び104を空輸するだけの余裕はない。自走によりソシア隊に合流せよ。四時までにソシア隊までの走行ルートを作成しておく」 「はい」 「準備にかかれ」 「はい」  スカイは再び敬礼をして指令室を後にした。
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