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日が沈もうとするころ、スカイたちは砂漠を進んでいた。予定ならあと数時間でルー・ソシアの部隊に合流できるはずだ。
「・・・・・02連隊・・・・・ジョン・スカ・・・・・・および・・・・」
「ん?」
微かな無線の音が飛び込んできた。
「ユウ、聞こえたか?」
「はい。スカイさんの名前を呼んでいるようでした」
「ここで待っていろ」
スカイはユウに言い、近くの小高い岩場の上へと跳んだ。
一昔前に比べ、レーダーや無線の感度は極端に悪くなっている。
高いところに上り、何とか無線の声を聞き取れるようになった。近くの同盟軍の基地からスカイとユウに宛てた無線だった。
「ダブルドラゴンに攻撃を仕掛けている部隊の応援に行こうってのは、お前らか?」
認識番号を確認した後で無線の相手が尋ねた。
「そうだ」
スカイが答える。
「帰還命令が出ている」
「帰還?」
「近くの基地に行くか、そのまま来たコースを戻れとの命令だ。そちらの位置を教えてくれればこちらの基地まで誘導するが」
「なぜそんな命令が?」
「ルー・ソシアが戦死した。ダブルドラゴンへの攻撃はどうなるかわからんが、お前らには帰還命令が出た」
「そんな」
一瞬にして全身の血が引いた。感覚を失い、宇宙空間を彷徨っているような錯覚を覚えた。
「どうした」
「いえ、どうしたらいいか」
スカイはどうにか立ち直った。
「もしどうしてもダブルドラゴンと戦いたいのなら、この通信は無かったことにしてやる。進むなり戻るなり好きにしろ」
「はい」
「じゃ、俺はもう少し呼び出しを続けるが、無線には応えるな」
「はい。心遣い、感謝します」
スカイはユウの元へと戻った。
「帰還命令が出た」
「はい」
「お前は基地に戻れ」
「スカイさんは?」
「俺はソシアの敵を討つ」
「なら一緒に行きます」
「ダブルドラゴンはかなり手強い。帰れないかもしれない。俺はルー・ソシアと一緒に戦いたかった。だからルー・ソシアのために戦う。だがお前にそんな義務はない。基地に戻れ」
「一機で仕掛けるのと二機で仕掛けるのとでは大違いです。一緒に行かせてください」
スカイは迷った。確かにそうだ。だが、二機で攻撃を仕掛けてもダブルドラゴンを沈められるか。
「スカイさんがソシアという人と戦いたかったように、僕もスカイさんと戦いたい。強い敵をスカイさんと戦って撃墜したい」
その言葉にスカイは心を決めた。
「よし、行こう」
ルー・ソシアがいなくなった今、ソシアの部隊はまだ残っているかもしれないが、もう用はなかった。ダブルドラゴンに仕掛けるなら、自分たちだけで行く。
「予定なら、そろそろこの辺りを通るはずだ。斥候が出ているかもしれない。用心しろ」
日は落ち、風が砂を巻き上げた。月の明かりが砂漠の姿をうっすらと浮かび上がらせている。
不意にレーダーが反応した。
「伏せろ、エンジンきれ!」
そうユウに告げると、スカイはF105を岩場の陰に隠し、コックピットを出た。
地響きに似た音と、風が吹き上げるような音が近づいてくる。
スカイは走った。いつの間にかユウも後ろを走っている。
地を滑るように低空を飛ぶ巨大な機体が現れた。
「でけえ」
ユウが驚いた声で呟いた。
この航空戦艦は今までのイメージとはかけ離れたものだった。おおよその形や大きさは調べて頭に入れてあったが、実際に目にする迫力は想像以上だった。ドラゴンというよりはカメのような寸胴の姿で、おおよそスマートとは言えない。カメが首を引っ込めたまま、両前足を前方に伸ばしているようだ。甲羅の真ん中から、竜の頭に似たふたつの艦橋が突き出ている。
艦橋の前後に巨大な砲塔が一門ずつある。全体的に凹凸の少ない、シンプルな形をしている。そして四方にその巨体を操るための大きなプロペラが張り出している。低速で空中を飛ぶときは主にそのプロペラで浮力を得ているらしい。
元々高速移動用には造られていないらしいが、いざとなれば四方に張り出したプロペラを収納し、代わりに羽根を出して後方のロケットエンジンで移動することもできるというデータがある。
「すげえ。これがダブルドラゴンか」
スカイの隣で暗視用の距離計を覗くユウがつぶやいた。
「どうだ? やめるか?」
スカイが尋ねる。
「いえ。今まで幾つかの部隊が仕掛けて落とせなかった戦艦です。ぜひこの手で落としてやりたくなりました」
「うん。幸い低速飛行をしているから、先回りして仕掛けよう。ユウは後方からロケットエンジンの排出口を狙え。そこにマシンガンの弾をお見舞いしてやれ。俺は前方のカタパルトを狙いにいく。きっと攻撃を仕掛けられて敵のFマシーンが出撃するから、そこを狙う」
スカイの言葉に、ユウが黙ったまま頷く。
「あの主砲の一撃を食らったら、いくらFマシーンでもひとたまりもない。常に砲身の向きをコンピューターに監視させて自分に照準を合わせさせないようにしろ」
「はい」
「行くぞ」
スカイとユウはFマシーンに乗るためにその場を離れた。
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